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映画 『ジャコメッティ 最後の肖像』

アルベルト・ジャコメッティ最後の肖像画のモデルを務めた文筆家による記録を映画化.TOHOシネマズ西宮.

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私は多分過去にジャコメッティの肉筆画を見たことがありません.私にとっては基本的に彫刻家という認識で,ざらざらとして極端に引き伸ばされた人体彫刻はこれまで何度か美術館で見ています.近いところでは2015年のチューリヒ美術館展.活動の場はパリでしたが,スイス出身ということでチューリヒ美術館にも多くの作品が所蔵され,あの時も一つのブースを設けて彫刻作品が展示されていたと記憶しています.

しかし今回この映画を見て,ジャコメッティが数多くのデッサンやリトグラフの下絵を描いており,それらが生前から極めて高額で売買されていたことを知りました.この映画は1964年,そのジャコメッティの友人である若いアメリカ人文筆家ジェイムズ・ロードが,「まあ夕方までには終わるから」と肖像画のモデルを依頼されてから,実際に創作が打ち切りになるまでの18日間の間に画家とロードの周辺に起きる様々な出来事を描くことで,ジャコメッティの人間と芸術そのものに迫ろうとするものです.

ロードをモデルとして椅子に座らせ,自分で頼んだくせに「極悪人の顔だな」「横から見ると変質者だ」などと言いながら細かく香の向きや姿勢を調整します.そして,描き出したかと思うと“Fucking!”を連発してすぐ止めてしまいます.調子良く描いているかに見えても,やがてまた“Fucking!”でせっかく描いたところの多くをグレーの絵の具で消してしまうの繰り返し.「見たままなど描けない」.「完成などしない」と言い放って行く手に暗雲が立ち込めます.

アトリエには愛人である娼婦がしばしばやってきて,その都度ペースは乱されます.この娼婦にジャコメッティは車(オープンカー)を買い与えますが,それに乗って3人でドライブに出たあと,ジャコメッティが体調を崩したりしてさらに製作は遅れます.ちなみに,このクルマはBMW 503 のカブリオレだったように思います.もっともこの車は1950年代中期の生産で,舞台である1964年パリとは少し時期がずれている気がします.私は古い車のことはよく知らず,帰って来てから記憶をたよりに調べたものなので,間違っている可能性は大いにあります.

若き美術評論家として,偉大な芸術家の作品のモデルになれることを誇りに感じているロードは,最初二日後にはニューヨークに帰ることにしていた予定を延期し続けます.そのため,ニューヨークで彼の帰りを待っている女友達とも大喧嘩をする羽目になります.

またジャコメッティの方も,愛人の存在を妻に隠そうともしないので当然揉めることになります.「普通の暮らしをしてちゃんとした家庭にしたい」とまっとうな訴えをする妻に,札束をばらまいて投げつけながら「カネが欲しいならやる,この低俗な物質主義者め」みたいなことを叫ぶ場面は凄惨です.

普通こんなことまで口にしたらもう人と人の関係は終わりですが,やはり芸術家を見る周囲の目は暖く,ジャコメッティ自身が「スイス系イタリア人だ」というように,どこか陽性で憎めないところがある描かれ方をしていました.

結局ジャコメッティ自身がこの肖像画を完成したと言うことはありませんでしたが,18日間かけて画家の動きを把握したロードが,ようやく完成したかに見える肖像画を画家が消しにかかったところで止めて終わりになります.

芸術家の創作とはどういうものかを考える上でとても価値のある記録で,それを極めて達者な俳優達が演じていて見応えがありました.この映画を見ながら,私はミケランジェロが若い頃,「ピエタ(バチカン)」とか「ダヴィデ」といった完璧という以外に言葉の見つからない作品を完成させながら,晩年はのみの彫りあとも露わで,あまつさえ石から掘り出しきってさえいない未完成作品を残していて,そしてその中には「ロンダニーニのピエタ」のように現在非常に高く評価されている作品があることを思い出していました.芸術において完成とは何か,そもそも表現しようとしているものは何なのか,そうした本質的な問いは,500年後の今でも確かに受け継がれている気がします.

なお,この映画のもとになった著作は日本語訳されています.表紙にはこの時描かれ,後にロード自身に寄贈された肖像画か掲げられています.ただし,現在は品切れ中.古本には相当な値段がついていて手が出ません.


ジャコメッティの肖像

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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