下野竜也のブルックナー交響曲第6番を聴く

PACオケでブルックナーの交響曲を次々と手がけてきた下野竜也.兵庫県立芸術文化センター.

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またずいぶん時間が経ってしまいました.これを聴いたのは5月28日.3週間も経ってしまいましたが,続けて聴いている下野ブルックナーなので,何とかメモを残しておきたい.

前半はロドリーゴの『アランフェス』.ジャズファンにもマイルス/ギル・エヴァンスやジム・ノールのアルバムで超有名な曲です.この日の演奏は,もともとギター協奏曲であるこの曲をハープで弾こうという試み.ソリストは吉野直子.

第1楽章の最初から,ギターよりもずっとふくらみのあるハープの音に深く印象づけられます.ギターが管弦楽をバックにするとどうしても音量の問題が生じますが,ハープだと華やかな響きがホール一杯に拡がります.有名な第2楽章のような夕暮れの陰影はなく,明るい太陽の光と風の薫り(私はスペインには行ったことないのだけれど)に溢れています.

そしてその第2楽章.ギターによる情念はやや後退する代わりに,節度と典雅の表出を味わうことができます.確かにこの楽章が与える印象がこの曲のイメージを決定づけているのは間違いありません.マイルスもジム・ホールも第2楽章だけをアレンジして演奏しているので,ジャズファンの中にはこの曲が急-緩-急というスタンダードなコンチェルトの形式を持っていることを知らない人も多いようです.

第3楽章は一転して再び明るく情熱的な音楽となります.速いパッセージが連続して現われ.ソリストの“腕前”が問われるところ.ハープという楽器の演奏は見かけよりずっと大変そうです.以前エマ・カークビーの聖歌を聴きに行ったとき,伴奏の一台がバロック・ハープでした.この楽器はペダルが無い代わり,全部で100本もある弦が3列に並んでいて,真ん中を弾くときは両側から指を入れると聞いてびっくりしました.今回吉野が弾いたのは現代オケでも一般的に使われているダブル・アクション・ペダル・ハープ.弦は47本ですが,半音と転調のためにペダルが7本もついているそうです.演奏は優雅とはほど遠いですね.ハープ・コンチェルトなんてもちろん初めて聴きましたが,全身を使って実に体育会系の楽器であることがよくわかりました.

休憩をはさんで,ブルックナーです.私の知る限り下野はこのホールで,PACオケとブルックナーを4番,7番,8番,9番の順に演奏してきました.チケットを買っていたのに聴けなかった7番が悔やまれますが,他はすべて聴いています.そして今回第6番.

7,8,9番と較べると小規模であるという以上に,音楽の構え自体のスケールがだいぶ小さい気がします.演奏に1時間以上もかかる大曲が“小さい”わけないのですが,私自身はこれまであまりこの曲を熱心に聴いてきていません.第1楽章,弦楽器の刻む細かいリズムに乗ってチェロとコントラバスによる主題が現われます.しかしこの主題は躍動的ではあるものの短く繰り返されて,後期大交響曲群に共通する息の長さが感じられません.以降の曲想の現れ方もやや文脈に乏しい感じで,“構えが小さい”というような表現をしたくなるのはこういったところに起因するのかなと思います.曲想の変転に滑らかさが欠ける感じなので,この作曲家特有のいきなりのトゥッティもちょっと煩いような...

第2楽章のアダージョは文句なく美しいです.しかしそれも私が知っている叙情とはだいぶ違って,理解できたと言うにはまだ遠いですね.7番や8番の緩徐楽章は心から没入できる気がするのだけど,この曲はなかなか手強いです.ちなみにこの楽章では私の両側にいた女性は2人とも爆睡状態でした.

第3楽章は明るく躍動的なスケルツォですが,ここでも突然咆哮するトゥッティはやや辛い.のどかな田園風景が目の前に展開したと安心していたら進軍ラッパみたいな音がいきなり響くので気が抜けません.フィナーレは豪放で,“峨々たる”というような形容詞が思い浮かびます.最後に第1楽章の主題が提示されて終わりますが,描かれた円環が永遠性を感じさせるという場面まではなく.

ブルックナー後期の大交響曲群では,深く長い内省の果てにとうとうあの世に行ってしまいました的なところがあって,もちろんこれは冗談で言っているわけでなく私の偽らざる印象なのですが,それが無二の魅力であると信じています.しかし,その耳でこの第6番を聴いてはいけないのかもしれません.腑に落ちるまでにはまだ私の修行がだいぶ必要のようです.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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