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須川展也サクソフォン・リサイタル

随分時間が経ってしまいましたが,クラシック畑のサクソフォン奏者・須川展也のリサイタル.ザ・フェニックスホール.義父が亡くなってすぐの公演だったのでどうしようか迷ったのですが,結局聴きに行くことにしたのでした.

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サクソフォンはジャズバンドでは横綱級の主要楽器ですが,歴史の浅い楽器だけにクラシック音楽では活躍する場面はそれほど多くないようです.それだけに,クラシック畑でサクソフォンを持って演奏家をめざすということ自体,勇気ある挑戦であり困難な開拓であったと思います.

私はもちろんジャズファンとしての関心からですが,クラシック的文脈でのサクソフォン演奏をぜひ一度ナマで聴いてみたいと思っていました.今回のリサイタルは,須川の奥さんの小柳美奈子のピアノをバックにしたデュオでの演奏です.演奏された曲は以下.

カッチー二(朝田朋之編):アヴェ・マリア
ファジル・サイ:組曲-アルト・サクソフォンとピアノのための 作品55
チック・コリア:アルト・サクソフォンとピアノのためのソナタ “Florida to Tokyo”
- 休憩 -
J・S・バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より“アルマンド”,“クーラント”,“サラバンド”,“ジーグ”
吉松隆:サイバーバード協奏曲(ピアノ・リダクション版)

最初の『アヴェ・マリア』.ジュリオ・カッチーニ(1545頃~1618)の作とされていますが,実は現代作家の模作です.それは聴けばすぐわかる.古典的な相貌を持ちつつも,所々にポップ・ミュージックの作曲家が書いたのかなと思わせるようなゴージャズな響きがあって「正体見たぞ」となります.このリサイタル全体-あるいはこの須川展也というサキソフォン奏者の有りようを総括しているような一曲と言えるかもしれません.

2曲目は,須川がピアニスト・ファジル・サイに作曲委嘱した組曲.第1楽章アレグロは颯爽とした疾走感に溢れ,チック・コリアやハービー・ハンコックの音楽のよう.第2楽章アンダンテは一転ちょっといやらしい半音階が多用され,暗い夜を行きつ戻りつ迷い歩く感じ.第3楽章プレストでは表面的なことをクダクダ回りくどくしゃべるかのよう.第4楽章の“Ironic”では変拍子の嵐,第5楽章のアンダンティーノは“子守歌のように”ですが,ピアノの低音弦が効いて夢と現実を往還.穏やかに眠れそうにはありません.第6楽章フィナーレは再びプレストで疾走.ジャズ感ありありでした.

前半最後・今度はチック・コリアへの委嘱作品.完全なクラシックのソナタ形式で書かれているのに,一聴してチック以外ではありえないフレーズが次々と現われて嬉しくなります.こんなのが譜面に書かれているのは驚きですね.安易に4ビートになったりしない点もよかったです.

休憩をはさんで最初はバッハ.バッハの無伴奏曲をサキソフォンでというと,清水靖晃がチェロ組曲を演奏したことが思い出されますし,金管楽器つながりでいうと,ラデク・バボラークがホルンで同じくチェロ組曲を演奏した録音も衝撃的でした.須川は無伴奏ヴァイオリンのパルティータを採り上げており,演奏技術的にこれがどれほど困難なことなのか,私には残念ながらわかりません.管楽器による膨らみのある音が,ホールにやわらかく響くのがとても美しくて印象に残りました.

そして最後は吉松隆のサイバーバード協奏曲.TVドラマの主題曲の作曲などでもよく知られた音楽家ですが,本当に天才的です.すばらしい.彩の鳥,悲の鳥,風の鳥という急-緩-急の3楽章構成ですが,特に急速楽章での混濁した“狂い方”やそこからの解放にはきわめてジャズ的なカタルシスがあって,現代の音楽でなければ聴けない歓びを大いに味わうことができました.

須川には,「自分の音楽は実は一般には理解されにくい」という認識がしっかりあって,実際今回のリサイタルでも中核となるサイやチック,吉松の曲は耳に心地よいばかりではありません.でもその歯ごたえをこそ味わいに行くのであって,ちゃんと耳の開いた音楽ファンなら間違いなく楽しめると思います.いやほんとに楽しい演奏会でした.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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