藤田嗣治展

兵庫県立美術館.

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藤田嗣治の生涯については,昨年秋に小栗康平監督の映画『FOUJITA』が公開され,本ブログにもメモを残してあります.今回は,時代によってその作風に大きな振幅のあった藤田の全貌が捉えられている展覧会ということで,酷暑のなか美術館へ向かいました.展示全体の構成は次のようになっています.

Ⅰ 模索の時代 1909年~1918年
Ⅱ パリ画壇の寵児 1919年~1929年
Ⅲ さまよう画家 1930年~1937年
Ⅳ 戦争と国家 1938年~1948年
Ⅴ フランスとの再会 1949年~1963年
Ⅵ 平和の祈り 1952年~1968年

藤田という画家は,黒田清輝らが中心となって活動していた当時の日本画壇に失望するところから出発したとされています.けれども初期の『婦人像』などでは,明るい背景や健康そうな肌など,やはりそうした時代の影響が強く感じられます.若々しい『自画像』は昂然と顎を上げ,パリ時代のすっとぼけた雰囲気とはまったく別人です.

1913年に渡仏してパリにアトリエを構えた後の作品では,当初極貧の中で描いた暗い色調の風景画や,『収穫』に描かれる女性の姿態に古代ギリシャ壁画の影響を見たり,またそのアーモンド形の目からモディリアーニとの親交を読み取ったりすることができそうです.

第1次大戦後にパリで大成功するなかで描いた,陶器のような肌をもった裸婦像は藤田のもっとも得意としたスタイルで,もちろん何点か展示がありました.改めて言うまでもなく唯一無二の表現で美しいのですが,一方で,あからさますぎるかなと感じる場合もあります.

しかし,やはりこの人はとてつもなく上手いと思わせるのは,たとえば人物画なら1923年作の『人形を抱く少女』.同じタイトルの作品は他にも有名作がありますが,フランス人の少女を描いているのにおかっぱ頭でややつり気味の目がどこか日本的で清潔です.また,衣服の細かい模様の表現がどれほど美しいか,これは現物を見なければわかりません.

さらに1922年の『バラ』は,藤田としてはあまり多く描かなかった分野なのかもしれませんが,盛りを過ぎてシックな色合いのバラ,手触り感まで伝わってくるような水差し状の磁器の花瓶,テーブルの上の布の質感など,どこをとっても品の良いリアリティに溢れています.今展示作品中一番惹かれた作品です.

こうしてパリで絶頂期を迎える藤田ですが,3度目の離婚や納税を巡る当局とのトラブルなどから,1931年に中南米で開催される個展にかこつけてパリを脱出.その後中国を経て日本へ帰国します.中南米の太陽と開放的な文化に触れた藤田の絵画は大きく変わり,原色の多用や庶民の野卑とも言えるような振る舞いまで画題にするようになります.帰国後に描いた相撲取りやちんどん屋の姿は,まるで外国人の目を通して見ているようだと批判もされたようです.

藤田帰国後の日本は戦時体制下で,やがて画家もその渦に巻き込まれることになります.『FOUJITA』の時に書いた『アッツ島玉砕』には,子供の頃図録を見て以来50年を経て初めて実物と対面しました.このあたりの事情は上の記事やつい2か月ほど前に見た「1945年±5年 激動と復興の時代 時代を生きぬいた作品」展に関するメモにも書きました.本作品についてはそのように予備知識があるので,ある程度客観的に“鑑賞”はできますが,公開当時これをみた戦時下の人たちの衝撃はどれほどだったかと,やはりその大画面の向こう側にある時代に思いを至らせることになります.

そして戦後.藤田は批判にさらされ,再び渡仏してついに帰国することはありませんでした.反動のようにカトリックへ改宗し,宗教画を描くようになります.こうした,何となく過度に見える適応性もまた,この人らしいのかもしれません.この時代の藤田の画業が,現在どのような評価を受けているのか私はよく知りませんが,特に強く心惹かれるという作品には出会いませんでした.ただ,活動の軌跡を知ることができたのは収穫だったと思います.

作品を見終わって出口にある関連商品を扱うショップを見ていたら,戦後藤田がマッカーサー夫人に請われて描いたとされるエッチング作品3点が販売されていました.そのうちの一点はキリストの生誕を描いたものでしたが,登場人物(マリア?)は日本の十二単を着ています.こんな俗悪なものを作ってしまうのも,この画家のサービス精神のなせるところでしょう.あるいは,日本を脱出するための極めて切実な事情があったのかもしれません.こうした面も含めて,愛すべき人だとは思います.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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