映画 『フリーダ・カーロの遺品』

死後50年を経て公開されたメキシコを代表する画家・フリーダ・カーロの遺品を,写真集『ひろしま』の石内都が撮影する現場を記録したドキュメンタリー.小谷忠典監督.大阪・十三・シアターセブン.

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ポートレートの出典はこちら

今夏はフリーダ・カーロの名を3度耳にしました.最初は森村泰昌『自画像の美術史』で.金属パイプに貫かれた身体のポートレートは痛々しいですが,それが森村風の諧謔にくるまれ弔われていました.次はデトロイト美術館展.美術館の巨大なフレスコ壁画を描いたディエゴ・リベラの妻として紹介されていました.そして3度目がこの映画です.

遺言によって50年間住居の浴室に封印されてきたフリーダの遺品の数々.それらを撮影しようというプロジェクトが立ち上げられ,依頼を受けたのが写真集『ひろしま』で被爆者の遺品を撮影した石内でした.石内の前にも何人かの写真家が同様に撮影を試みたようですが,依頼者の気に入るものにはならなかったとのこと.このドキュメンタリーの撮影が決まったのは,石内が撮影のためにメキシコに渡る直前だったようです.

石内の述懐によると,フリーダ・カーロについては元々あまり強い関心は持っていなかったらしい.身体の障害や,スキャンダラスな結婚生活から,どうしても先入観をもたれがちな人ですが,今回のプロジェクトで遺品の撮影をしてみて,生活者としての等身大のフリーダが感じられてきたと言います.

小児マヒで右足が短かったフリーダに合わせて左右の高さが異なるように作られた靴.フリーダが日常的に身につけていたメキシコの伝統衣装.事故の後遺症による身体の絶え間ない痛みを抑えるためのコルセットや医薬品.こうした,生前のフリーダが実際に生活に用いていた品々を,石内はあるものは屋外で,あるものは室内に外光を採り入れて撮影していきます.

石内の使う機材は,このドキュメンタリーを観ている限り,ニコンの35mmフィルムカメラたった1台です.このカメラを中腰の不安定な姿勢で構え,三脚も使わず手持ちで撮影します.凝ったライティングもなく,基本的には自然光だけを使って撮っています.最初は試し撮りしているのかなと思ったくらいで,そうではないとわかってびっくり.衣服は床に置くか,窓に吊して外光を透過させるようにしていました.そのようにして撮影されたうちの1枚が,パンフレットの表紙に使われています.

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こうしてドレスの全体を撮ると,もちろんそれはただの衣服に過ぎないのだけれど,そこには生きた女性のなまめかしさが確かに感じられてある種のショックを受けます.しかも,本人はもういないという事実と50年という歳月によって,フリーダ・カーロという苦難の人生を歩んだ女性の身体が浄化されてそこに存在するような錯覚にとらわれて幻惑されます.

映画はそこから,フリーダの母の故郷であるオアハカ州イスモのテワナドレスや刺繍がもつ文化的背景へと展開します.そうしたドレスが母から娘へ受け継がれるところは日本の着物との共通点とも言えるでしょう.カメラはまた,メキシコの“死者の日”のお祭り騒ぎにも向けられます.そして遺品の撮影中,石内の友人の死の報がもたらされ,さらにそれが自死であったことがわかるに至って,石内が深い悲しみに打ちのめされる場面も挿入されます.

そうした,生者と死者との交感の様々な形が示された後,場面は国際的な写真展である“パリ・フォト2013”へシフトします.ここで,石内の撮影したフリーダの遺品の写真が初めて公開されます.上のドレスの写真もA0くらいのサイズに焼かれて展示されていました.ほぼ等身大.これがあの,さらっと撮った写真なのかと本当に胸打たれます.確かにそこに,おそらくは人の何倍もの量の感情をもった女性がいるのです.見る人の胸にさまざまなフリーダ・カーロが刻まれることは間違いありません.インタビューされた観客がみな雄弁なのに驚きましたが,これこそが石内という写真家の作品の力の表れでしょう.

見る人によってさまざまな視点からの印象を持ちうる秀逸なドキュメンタリーだと思います.私にとっては,やはり写真の力というものを再認識したことがもっとも重要であったと思います.


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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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