ネパール・旅の風景 -1981年カトマンズ寸描(続き)

元はといえばお釈迦さんの生まれたのは現代のネパールに属するルンビニという場所です.ネパールの仏教自体は,仏教発祥以降にインドからもたらされたもので,イスラムによって仏教が滅ぼされたインドで消失してしまったサンスクリット経典がネパールに残っていたりして,仏教研究では重要な場所であるようです.

私はもちろんそうしたアカデミズムとは無縁でしたが,有名な仏教寺院は見ておこうと思い,ボドナートやスワヤンブナートへは行ってみました.日本で寺と言えばくすんだ木造建築が思い浮かびますが,インド・ネパールの仏教寺院は例外なく石造りです.チベット仏教寺院であるボドナートでは,仏塔から張り渡されたロープに無数の小さな旗.これにはお経が書いてあって,風にはためくことで経を読んだことになるそう.そういえばマニ車というのもあって,これは軸を中心としてくるくる回る円筒にやはりお経が書いてあるものです.参拝者がみんな,順番にこれを回して歩いていくのはどこかお手軽っぽくて微笑ましい光景でした.

カトマンズの中心部は道が狭く,もちろんタクシーは入っていけません.基本的には自分の足で歩き回ることになります.現地の人たちはバイクをよく使っており,日本メーカーの125ccオフロード車がたくさん走っていました.確か,私のいるときにそうしたバイクや耕耘機(!)が並んでパレードをしていたような.このあたりはさすがにもう記憶が薄れています.

ただ,レンタルバイクもあったので,半日借りてみました.ホンダの125ccだったと思います.これでカトマンズ郊外に出て,街を遠巻きに一周するソロ・ツーリングをしました.ヘルメットは借りられなかった(かぶる習慣がないようだった)ので,日本ではやったことがないノーヘルでのドライブでした.カトマンズの郊外道路は一応舗装されていましたが路面は悪く,それが荒涼とした風景の中に伸びています.走っていると砂塵が飛んできて顔に当たるし,目はしょぼしょぼするし,それにいざ転倒したときのことを考えると,やはりノーヘルは怖い.そんなわけで,とてものんびりしたツーリングでした.

その旅には標準レンズをつけた一眼レフを持参していて,このバイクツアーの時もリュックに入れていました.ちょうど眺めの良いところで荷車を引いたおじさんに出会ったので,自分の姿を撮ってもらおうと思ってバイクを降り,身振りで「ただここを押すだけでいいから」と伝えても,その人はほんとにすまなさそうに,「私にはそんなことはできません」という感じで手をあわせて固辞されました.

考えてみれば無茶なお願いだったと思います.私はあきらめてありがとうを言い,またバイクのエンジンをかけました.この時の写真は実は結局1枚も残っていません.なぜか風景だけを撮影するということを思いつかなかったんですね.それにしても,この人の振舞からにじみ出る素朴さや地に足のついた様は,旅を通じて感じたことの中でも特に印象的なことの一つで,こんな所まで来てぶらぶらしている自分がかなり恥ずかしくなりました.

こんな風に10日間ほど過ごしているうちに,インドで疲れてしまった心身がだいぶ整ってきました.そろそろリスタートしようと思いながら街を歩いていたら,ふと小さな張り紙を見つけました.ロンドン行き(!)のバスの予約募集をしています.これが話に聞いていたカトマンズ-ロンドン・ヒッピーバスというやつか.ヨーロッパから来て金を使い果たした若者が,最後に残った金でこのバスのチケットを買って帰国の途につくのだと.ホントにあったんだとびっくりしました.予約が一杯になったところでバスが出るという,不定期出発の伝説のバス.

しかし,1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻で,それまでは安全に通過できていたルートが危険になり,1981年時点では都市部を避けてアフガン北部の砂漠地帯を延々走らざるをえないようなルート設定になっていると聞きました.ヒッピーをやっているのも楽じゃないらしい.

無論私はヨーロッパへ向うつもりなどなく,もう一度あの-とんでもなく猥雑だけど,とんでもなく奥深く豊穣な(予感がする)-インドへ戻るつもりでした.カトマンズで見たヒッピーバスの張り紙は,直接の関わりはありませんでしたが,私の旅心をかき立ててくれたことは確かでした.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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