自動車開発は“簡単”か-その3

次に衝突安全(パッシブセーフティ )についてです.

衝突安全性については,日米欧等の先進諸国ではそれぞれ厳格な法規が定められており,車体がそれに適合しなければそもそも販売が認められません.したがって,最終的には法規に基づいた実機試験を行なって,基準を満たす車体であることをきちんと証明しなければなりません.

昨日の「強度」のところでも書きましたように,試作車はきわめて高価です.したがって,量産にいたるまでの何段階かの試作段階すべてにおいてちゃんと衝突安全性を評価していくためには,とてもコストがかかります.そもそも,走行試験等で剛性・強度や振動・騒音を評価しても車体そのものが決定的に損傷してしまうことはめったにありませんが,衝突試験はぶつけたら最後,いっさい他の試験に使用することは不可能になってしまいます.1回試験をして基準を満たしていなかったら,また試作車作りからやり直さなければなりません.

そこでコンピュータ・シミュレーションが活躍することになります.確かにモデル作成は大変ですが,それでも以前に比べれば格段にやりやすくなっています.ただ,衝突現象のシミュレーションのためには,大変形で材料非線形を想定した解析を行なわねばらず,強度や剛性の解析に較べてはるかに大がかりなものになります.

衝突の現象というのは,たとえばフルラップの前面衝突ですと,固定壁にぶつかってまずバンパーが押され,次にフロントエンジンが押されるとともに周囲の部材が潰れてエネルギー吸収を始め,潰れしろがなくなったところで今度はステアリングコラムなども押されます.

同時に運転席ダミーがシートベルトに支えられながら前につんのめり,開いたエアバッグに突っ込みます.車体前部でエネルギー吸収できない車体だと,変形はキャビンにも及びます.その後,ダミーはシートの方向へ跳ね返り,車体全体も進行方向とは逆方向にスプリングバックを始めます.

この間,およそコンマ1秒くらいだと思います.0.1秒間に主要な現象のほとんどは終わってしまいます.この速い現象について,実験でも高速度カメラを使って車体やダミーの挙動を追いますし,シミュレーションでも同様です.

安全性の評価は,たとえば頭部傷害はHICで行ないます.HICの算出には頭部の加速度が必要なのですが,シミュレーションで変形量の2階微分である加速度までぴったり予測するのは,現在でもたぶんかなり大変なんじゃないかなと思います.

以上のように,衝突安全性の確保は,高度な実験技術とシミュレーション技術を総動員して行なわなければ実現できません.これも,自動車のことをよく知っている技術者集団でなければ難しいと思います.(つづく)

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