新国立競技場騒動に思う -意匠設計に与えられた過度な独立性の弊害(続き)

新国立競技場デザイン・コンペの内容は以下のサイトに示されています.募集要項からコンペの審査報告書までがPDFファイルにまとめられて置かれています.

新国立競技場 国際デザイン・コンクール報告書

応募作品のすべてが画像で提示されていて,建築という最大規模をもつ美術作品のコンセプトに触れることができて大変興味深いものがあります.募集要項には競技場が満たすべき条件が示され,すっかり有名になった1300億円の費用制約もちゃんと明示されています.その上で,応募者に要請された提出書類は以下です.

■必要提出書類
(1)スタジアムの概観及び内観パース
(2)スタジアムの施設建築計画・概略設計
(3)テーマ別の計画提案
 ①観覧席に関する考え方
 ②周辺駅からのアクセス及び入退場動線処理に関する考え方
 ③ホスピタリティ機能及びスポーツ以外のスタジアムの利活用に関する考え方
 ④環境配慮に関する考え方(省エネその他)
 ⑤構造計画,屋根の架構及び開閉機構に関する考え方
 ⑥事業費及び工期に関する考え方
(4)電子データ

この中で,今回の騒動の発端となったのは事業費と工期に関する提案の部分です.各提案者はそれぞれ合理的な根拠に基づいて費用を算出するはずですが,提案で求められているのは「考え方」であって,エビデンスの提出までは要請されていないように見えます.これでは根拠の合理性が希薄で,極端な話楽天的で安価な見積もりに基づいて,より“盛られた”案にすることも可能なように感じます.

ザハ案が実施設計に係る段階の見積もりで2倍の事業費を必要とすることになったのは,2本のキールアーチがきわめて高くつくことがわかったからだとされています.ザハ側は230億で可能だというものが,実際には無理だというわけですが.これだけの増額の理由は材料費や人件費の高騰だけで説明できるものではなく,具体的工法の検討を含むフィージビリティ・スタディがほとんど機能していなかったことを示唆しています.

私は本件に関する安藤忠雄氏の会見のビデオを何度も見ました.横長のパネルを男性2人に持たせてプロジェクトのスケジュールを説明していました.そのパネルには,以下のシーケンスが書かれています.

「デザイン案選定」→「基本設計」→「実施設計」→「工事着手」

そして安藤氏は「デザイン案選定」の最後の部分にマジックで線を引き,「私らが関わるのはここまでなんです」と強く主張していました.その言葉の裏には,「費用の正確な見積もりはこの段階では無理だ」という弁明があります.実際その通りなのだろうと思います.

上の手順は一般に「システムズ・アプローチ」と呼ばれていて,要するに厄介な問題解決にはまず枠組みを決め,それから各論の解決を進めてゆくことが,検討すべき選択肢を減らし,結果として良い解決案をもたらすのだという考え方です.これは建築に限らず,あらゆる人工物の計画・設計・運用に有用だとされています.

クルマの開発でも基本は同じで,この基本形をウォーター・フォールモデルと呼びます.しかし,1980年前後から日本の自動車メーカーでは,上のようなウォーター・フォールモデルをそのまま適用していたのでは開発に時間がかかりすぎるし,ある程度まで進んだ所で問題が見つかってバックせざるをえない状況になることも防ぎにくいということに気付いていました.

そこでどうしたか...を次回書きます.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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