戸田弥生&エル=バシャ デュオ・リサイタル

兵庫県立芸術文化センター小ホール.

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2013年は,バッハの無伴奏ヴァイオリン『シャコンヌ』を4回聴いた年でした.その中でもっとも感動的であったのが,この戸田弥生の演奏でした.今回はエル=バシャのピアノとの共演です.4~5月の休日はできるだけ戸外に出かけたいのであまりコンサートチケットを取らないのですが,このリサイタルは聴き逃すわけにいきません.

前半1曲目はシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番.恥ずかしながら,私は初めて聴きます.第1楽章は厳格さともなって始まりますが,次第にエネルギーを増し,陰りのある情熱を感じさせる音楽となります.第2楽章は短調のスケルツォ.前楽章の雰囲気を引き継いで開始します.「いきいきと」とありますが,途中で微かながら詠嘆の歌が聞こえた気がしました.第3楽章の素朴で敬虔な祈りは感動的です.そしてフィナーレ.音楽は再び熱気を帯びますが,そこにはもう迷いはなく,明朗と快活を取り戻して曲は終わります.

そして2曲目.戸田が一人で現われ,シャコンヌを弾きます.前回私が聴いたリサイタルでは,パルティータ第2番を全曲弾く中での終曲としてシャコンヌを弾いたのでした.聴衆は,そして戸田自身もバッハの世界にじっくりと浸った後に第5曲のシャコンヌに臨んだわけです.今回はそうではなく,シャコンヌが単独で演奏されます.

その意味で,演奏者にとっては全曲を弾くよりもさらに集中が要求されるのではないかと推察します.戸田は,あたかもそれまでずっとパルティータ2番の各曲を辿ってきたかのような緊張をもって演奏を始めました.よく鳴っている楽器(ガルネリ?)の音は,美音とは言えないかもしれませんが,深々として豊かです.テンポは速い箇所はかなり速く,そうしたところでは小さな乱れが感じられる時もありますが,そのような些事にとらわれず何かに憑かれたように先へ先へと進まないわけにはいかない,という精神の推進力を感じてグッときます.

以前も書いたと思いますが,戸田弥生のシャコンヌを聴くと,全力を振り絞って人生の困難な一時期を(あるいは人生そのものを)生ききったような,ある種の爽快さを感じます.もちろんそこには痛みの記憶やいつまでも残る苦さが混在しているのですが,それも含めて肯定的であるというような.今回も本当に胸打たれる演奏でした.いつも私は演奏後の拍手のことで文句を言っているのですが,このシャコンヌの後の拍手は,2,3秒間しんと静まりかえった後,一人が控えめに拍手を始め,それにつられて聴衆全員が我に返って心からの拍手を送ったという風情でした.きっと皆胸が熱くなったに違いないと思います.

ここで前半が終了し,15分ほどの休憩.後半はフランス音楽です.最初はエル=バシャの弾くラヴェルで,「鏡」から『洋上の小舟』と『道化師の朝の歌』.前半のシューマンとバッハで昂揚した心をクールダウンするような軽やかさです.『洋上の小舟』水面に反射する光のきらめきが音になっています.『道化師の朝の歌』ではどこかユーモラスな跳躍感.

そして最後はフランクのヴァイオリン・ソナタ.夢見心地とうずまく情念が戸田にぴったりな曲ですね.ただ,この曲の演奏に関しては,フレーズごとのテンポの取り方が不自然に感じる場面が結構あり,本当に二人揃って同じ歌を歌うというふうにはなっていないように私には思えました.おそらく,これまでこの曲の録音は聴きすぎていて,目の前の演奏を聴きながら私自身が自分で歌ってしまっていたのかもしれません.耳を洗って出直さなければ.

終わった後に,また最初から全部聴きたい.そんな演奏会でした.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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