新印象派展

スーラ,シニャックらの後期印象派展.あべのハルカス美術館.

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小学校の4年か5年の時です.図画の時間に風景画を描くことになりました.クラスのみんなはそれぞれ思い思いに海や山を描いていましたが,一人やたらに時間がかかっているクラスメートがいました.その子は遠景の山を描いていましたが,下書きをした輪郭線の中を,様々な濃淡をもつ緑色の小さな点々で埋めていたのです.もしかしたら,水彩絵具のチューブから筆を使わずに直接画用紙の上へ絵具を絞り出していたかもしれません.

私はそれを見て大いに感心しました.こんな風に絵を描いていいのかという驚き,しかも彼の描いている山はとても明るく鮮やかで,小学生の私には森林に覆われた本物の山のように見えました.微妙な色を出そうとして絵具を混ぜれば混ぜるほど濁って汚い色になることには自分で気付いていましたが,チューブから出した絵具を直接使うことによってこんなに鮮やかで微妙な色合いを出せるとは思いもよりませんでした.

結局彼の絵は時間内に完成しませんでした.しかし,学校内のコンテストにそのまま出展されたその絵は優秀賞を取り,空白の残った画面の横にリボンがつけられて掲示されていたのをよく覚えています.先生は,「A君がそのことを知っていたかどうかはわからないけれど,こうした描き方をした画家はいる」というようなことを言われたように記憶しています.

もちろん私が点描とか筆触分割といった言葉を知ったのはずっと後のことですが,点描画法に感銘を受けたのはこのように人生の結構初期段階であったわけです.今回はその筆触分割を極限まで推し進めた画家たちの展覧会で,開催期間の終わりが近づいた正月休みにやっと行くことができました.

この分野ではまずはジョルジュ・スーラです.代表作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』は本展にはありませんが,私は20代後半に出張でシカゴへ行った際にシカゴ美術館で見ています.本展ではそのための習作が何点か展示されていました.スーラの点描は年を追って細密になり,それとともに画面の静謐さが増していきます.スーラの『グランド・ジャット島』をはじめとする諸作品が他の後期印象派の絵画を一線を画すのは,色彩と光というテーマを超えて,そこに超現実的な危うさのようなものが固定されたことにあると私は思っています.

小学校の点描体験から,それがやたらに手間のかかる方法だとわかっていたので,私はスーラが31歳の若さで早世したことに関して,その制作スタイルが影響しなかったはずはないと思っています.スーラの死後新印象派を牽引したポール・シニャックやカミーユ・ピサロらの点描も,スーラの軌跡を辿るように細かくなっていきますが,やがて反転するように粗くなり,面の色を意識させるように変化しました.しかしこれは「細かい点描の制作は疲れる」という理由からではなく,そうやって構成された画面があまりにもスタティックで冷たいものになってしまうからです.

そうした反省の過程に登場したのがアンリ・マティスです.マティスの作品は2点の展示がありましたが,そのうちの『日傘の女性』は,モチーフそのものが容易にモネを連想させますし,粗い点描画法が採用されていることからも後期印象派に接近したものであることは一目でわかります.しかしもう1枚,同じ1905年の『ラ・ムラード』と並べてみると,その作風の変貌に度肝を抜かれます.

画面は大きな面で構成され,点描画法の名残はどこにも感じられません.しかしこのように時系列的に後期印象派の諸作品を見てからこの『ラ・ムラード』に接すると,印象派画家たちの追求した色彩分割の思想が,確かにここに受け継がれていることに気付かされます.

マティスはフォーヴィスムを経由したあと,単純化された色と形を用いた抽象的表現へと進んでいきます.20世紀の抽象芸術の萌芽の一つが,確かに後期印象派の探求にあったことがよく理解できる,よい絵画展でした.



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No title

こんにちは。
私も、東京都美術館で、『新印象派』光と色のドラマ – を見てきましたので、ご自身の体験も含めたご感想を興味深く読ませていただきました。
新印象派から展開して、シニャックが強い色彩を用い自由で色彩豊かな装飾性の高い絵画を展開し、フォービズムを生み出していったのは興味深く感じました。作品としては、スーラの『セーヌ川クールブヴォアにて』は不思議な清涼感の魅力を感じましたる

スーラの『セーヌ川クールブヴォアにて』は不思議な清涼感の魅力を感じました

Re: No title

dezireさん,コメントありがとうございます.
ブログも拝見させていただきました.美術・音楽・登山と広く深く関心を
お持ちのようで,特に展覧会は同じものをたくさん観ておられて,
自分とは別の視点が感じられるので興味深いです.
これからも訪問させていただきます.よろしくお願いします.
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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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