弦楽版ゴルトベルクを聴く

バッハのゴルトベルク変奏曲を弦楽三重奏で.大阪フェニックスホール.

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フェニックスホールの音楽アドバイザーである今井信子は,世界の若い演奏家の発掘を熱心に進めています.昨年聴いた高校生弦楽カルテットもこの人の企画によるものでした.今回もヴィオラは今井が担当しますが,ヴァイオリンはマイア・カベザ,チェロはガブリエル・カベザスという,いずれも20代の若い奏者です.

バッハのゴルトベルクといえば,私にとってはグレン・グールドによって現代的意味が与えられた曲で,鍵盤楽器を想定して書かれたものが弦楽器でどのように演奏されるのかが興味の対象です.ただし,最初と最後のアリアと30の変奏をすべて愛聴しているわけではなく,全曲集中して最後まで聴いていられるか,ちょっと心配ではありました.

前半は今井のソロによるバッハのシャコンヌ(ヴィオラ版,ト短調へ移調)です.一聴して暖かく,人の声が聞こえてくるよう.しかし,私はこの曲からはやはり超然・峻厳といった音楽を聴き取りたく,「地上の歌」であればバッハでも無伴奏チェロ組曲で聴きたいと感じます.ヴィオラでなければ聴けない音楽というものは私には聞こえてきませんでした.

短い前半が終わって10分の休憩後,3人が登場してゴルトベルク変奏曲の演奏が始まりました.やはり冒頭のアリアは弦楽で演奏されても同じように美しく感動的で,まったく違和感なくこの曲の世界に導入されます.弦楽三重奏とはいっても常に三つの弦楽器が鳴っているわけではなく,ヴィオラが休んだりヴァイオリンだけの独奏部分があったりと,原曲の構造がかえって明確にされると捉えることも可能です.

この曲は不眠症の貴族カイザーリンクのために演奏されたという逸話から,「眠りを誘う音楽」と誤解されることが多いとのことです.一方でこの解釈は誤りであり,「眠れぬ夜を過ごすための快活な音楽」が正しいのだとの指摘もあります.また,そもそもカイザーリンク伯爵のために当時14歳のヨハン・ゴルトベルクによって演奏されたという逸話自体を疑う説もあって様々です.

いずれにしても夜と眠りのイメージの強い音楽.私も第20変奏くらいまではかなり集中して聞いていたと思いますが,さすがに少しずつ集中力が落ちてきていました.終曲にふさわしく堂々とした第30変奏で我に返った次第.最後のアリアではホールの灯がだんだん落とされてゆき,最後は闇の中で静かに曲が終わるという演出.この曲らしくていいですね.直接の関係はありませんが,ちょっとハイドンの交響曲「告別」のことを思い出しました.

腕前の確かな若手と,彼らをリードする世界的指導者の組み合わせ.微笑ましくも見える邂逅で,楽しい演奏会でした.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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