山下洋輔トリオ 「モントルー・アフターグロウ」

山下洋輔は私が学生時代,もっともよくライブを聴きに行った音楽家の一人でした.ドラマーが森山威男の時代はライブでは知りません.私がライブハウスに通った時代はすでに小山彰太にかわっていました. 山下本人の音楽は基本的にはそれほど深刻なものではなくむしろ洒脱な部類のように思えますが,それと坂田明の情念が激しくぶつかりあい,ちょっと他では聴けない音楽が生まれていました.

山下は今でも活発に演奏活動をしていて,コンサートの案内もよく見かけます.クラシック音楽の演奏家との共演も多いですね.最近「ボレロ|展覧会の絵/山下洋輔スペシャルビッグバンド」の広告を見ていて,ふと数年前の『山下洋輔トリオ復活祭』のことを思い出しました.季節がちょうど今頃だったからかもしれません.

その内容は,TVでたしか2週にわたって放映されたものを私も見ました.むかしライブハウスで見た鋭い刃物のような雰囲気だったメンバー達も,いまでは年を経てすっかりいい大人になっていました.TVの老舗番組で全国放送されるという時点で,あまり過激なことはできないですよね.そこで演奏された音楽はほとんど叙情的といえるようなものが多かったように記憶しています.

もちろんそれが悪いというわけではなく,少なくとも山下トリオでの演奏は今もって聴くに足るものだと感じました.一方で,若いメンバーの入った(その当時の)ニュー山下グループは定ビートの音楽で,これが山下だと思うと 私の耳にはかえって古くさく聞こえてしまったものです.

驚いたのは,番組の最後にプレゼントとして紹介されていたCDが『モントルー・アフターグロウ』だったことです.これは今となっては暑苦しいけど,やはり大名盤といっていいと思います.A面はアルバート・アイラーの「ゴースト」で,B面が 「バンスリカーナ」です.いずれも各面を1曲ずつが占めます.特にこのB面の坂田の激情的な「うた」が感動的です.単純だけれど呪術的といっていい印象的なモチーフを反復しつつ,メンバー全員が互いに挑みあって音楽的死闘となります.若い頃私はこれを聴いて落涙を抑えられなかったものです.


モントルー・アフター・グロウ
ジャズ

A面の「ゴースト」については小さな思い出があります.ライブハウスで山下トリオの演奏を聴いていたときのこと,聴衆が盛んに「ゴースト」をリクエストしていました. トリオはそれに応えて「ゴースト」を演奏しました.演奏を終えたメンバーが私の座っていたカウンターに戻ってきて,それぞれハイボールなどを注文したあと,坂田がぼそりと「今さらね」と言ったのが聞こえました.彼らにとってはこの時点で過去の曲だったのかもしれません.

それにしても,『モントルー・アフターグロウ』なんてアルバムが穏やかな日曜の朝のテレビに映っているのを見て,あれからずいぶん長い年月が 経ってしまったなあと感慨に浸ってしまいました.彼らにとっても私にとってもね.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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