スポーツカーのホイールベース/トレッドは本当に黄金比なのか? -その3:レイアウト・マップと主観的分類

集めた50車種程度について,横軸をトレッド,縦軸をホイールベースとしてマップを作りました.車名の文字列を重ならないようにするアルゴリズムのパラメータ設定に気付かず,作画にちょっと苦労しました.このままだと見にくいので,図をクリックしてやや拡大されたビットマップ画像を表示するか,もっと詳細に見る場合はPDFファイルのリンクを押して自由に拡大してください.

20170919_1.jpg

PDFファイル


右上がりの赤実線がW/T=黄金比のラインで,ちょうどこの直線上に乗っているのが黄金比レイアウトをもつクルマです.前回も指摘したように,ジャガー・Fタイプ,アウディ・TTクーペ/RS,ポルシェ・ボクスター/ケイマンなどがこのレイアウトに近いです.

そこから上に引いてある3本の赤の破線は,それぞれ黄金比の2.5%増,5%増,7.5%増のラインです.この値が大きいほど前後に長いレイアウトをもつと言えます.2.5%刻みに区分したのは,このようにすると全体をほぼ5分割できそうに思えたからで,それをW/T比の小さい方から次のように勝手に命名してみました.

第Ⅰ類(ピンク)   : スポーツカー/スーパーカー
第Ⅱ類(イエロー) : スポーティーカー/GTカー
第Ⅲ類(グリーン) : ユーティリティーカー
第Ⅳ類(ブルー)  : ラグジュアリーカー
第Ⅴ類(オレンジ) : ショーファードリヴンカー

他方,左上から右下に向かって引かれている青の破線は,車体サイズの尺度W*Tが等しいラインです.W*Tが一定ならWとTは反比例関係になるので,直線ではなく緩やかな曲線になっています.ここでは3.0≦W*T≦5.0として図示したので,スマートのフォートゥー(小さすぎ)とかBMWの750Li(大きすぎ)は図中から外れてしまっています.

右下隅へいくほどピュア・スポーツ的な性格付けを与えられたクルマが多いようですので,第Ⅰ類は「スポーツカー/スーパーカー」としました.こうしてマップしてみると,やはりアルファロメオ4Cの位置は際立っています.スポーツカーとスーパーカーの境界はW*Tが4.0くらいのところでしょうか.4.0より大きくなるとスーパーカー.

第Ⅱ類には私のZ4 35iが入っています.第Ⅰ類との境界(黄金比ライン)近くにあるので,スポーツカーとは言えないまでも,かなり近い位置づけにあるというように読めます.まあまあ当たっているように思えます.ホットハッチ的なクルマも多くがここにあるようで,「スポーティーカー」類としました.GTカーともしていますが,これはどうでしょうかね.あんまりそれらしいクルマはないような気が.

第Ⅲ類はユーティリティーカーとしました.いわゆるSUVはここと第Ⅱ類の間にまたがって分布するのかなという印象です.「GTカー」はこちらの方がふさわしいようにも思いますが,「ユーティリティーカー/GTカー」といっしょにするのもどうかと思ってこのようにしています.日産のGT-RやフェアレディZといったスポーツイメージで世界的名声のあるクルマがここにあるのが極めて特徴的です.

第Ⅳ類には,今回私が集めたデータでは小さなクルマがなく,いわゆる「高級セダン」ばかりになったので「ラグジュアリーカー」です.また第Ⅴ類にも小さなクルマはなく,センチュリーがここにあること,さらにはミニバンもサイズにかかわらずほぼこの領域にあるようなので,運転手が雇われた人か家族・仲間のメンバーかによらず「人・モノを運ぶ」クルマなら「ショーファードリヴンカー」でいいだろうと.

等W*Tラインについて見てみるのも面白いです.たとえばトヨタ・クラウンとフェラーリ・ベルリネッタはほぼ同じW*T=4.4というサイズを与えられています.その資源をどう配分するかが.基本的な設計概念としてクルマの性格付けに強く影響していると読み取れるのではないでしょうか.

クルマのスペックを成立させている無数の変量の中から,ホイールベースとトレッドという2つだけ取りだしてみた結果なので,これで全部が説明できるなんて思っていません.日産のスポーツ車が第Ⅲ類に分類されてしまったのも,説明変量の不足がその理由であることは間違いありません.

しかし,たった2つながら,かなりの情報量を持っているとも感じます.そして,レイアウトの黄金比は,それを狙って設計されるという望目特性ではなく,ピュア・スポーツを名乗るために超えているべきハードルという捉え方が当たっているように思えます.また,特にスポーツ車では同じ車種でも新型になるとトレッドが拡張される傾向はあると思うので,今回は現行車種だけに絞りましたが,過去のクルマも載せてみると,時間的変化が読めるかもしれないなど,いろいろと想像してみています.
(終わり)

スポーツカーのホイールベース/トレッドは本当に黄金比なのか? -その2:データ収集

黄金比周辺には面白い話題が豊富で,「ホイールベース/トレッド比」にひっかかる理由も元はと言えばその点にあるのですが,今回は実際のクルマについてデータを集めてみた結果を示します.

とはいっても,元々「テスト勉強が進まないと全然関係ない本が読みたくなる」みたいなきっかけで始めたことで,網羅的なサーヴェイができるとはハナから考えていません.あとで2次元のマップを作ってみようと思っていたこともあり,データ数が多すぎるとわかりづらくなります.結局思いつくまま50車種程度を集めたところで打ち切りにしました.メーカー/ブランドには大きな偏りがあることは自覚しています.また,各メーカーのHPを参照する際の転記ミスなども十分あり得ると思います.

車体レイアウトという観点からは,ストレッチリムジンとか霊柩車なども載せてみると面白かったかもしれませんが,収拾がつかなくなりそうなのでここでは自家用として現時点で一般に販売されている乗用車に限りました.ただし例外もあり,センチュリーはとうに販売終了していますが後席優先車の代表として頭に浮かんだので入れてしまいましたし,スーパー7が一般的乗用車かと言われると即座に肯定はしかねますが,まあこの辺は学術研究ではないので勘弁してもらうことにして.

そうして集めたデータをメーカー別に並べたのが下表です.トレッドはフロントとリアで異なるクルマも多いので,単純に算術平均をとりました.ホイールベースをW,前後トレッドの平均値をTとしてW/Tの比を計算し,この値を黄金数1.61803398874989...で割った値を「Ratio」として示してあります.

このRatioの値が1ならちょうど黄金比だし,1より大きければホイールベースが長く,1より小さければトレッドが広いクルマということになります.また,クルマのサイズを表す尺度としてホイールベースとトレッドの積W*Tをもう一つのパラメータとして示してあります.四輪で路面をカバーする面積を表しています.土地1坪で約3.3m2であることが良い比較対象になると思います.

Name Brand WheelBase Tread
(F)
Tread
(R)
Tread (Ave.)
W/T Ratio W*T
[mm]  [mm]   [mm] [mm] [-] [-] [m2]
Abarth 595 Abarth 2300 1415 1410 1412.5 1.628 1.006 3.25
4C/Spider Alfa Romeo 2380 1640 1605 1622.5 1.467 0.907 3.86
Giulietta Alfa Romeo 2635 1555 1555 1555 1.695 1.048 4.1
Mito Alfa Romeo 2510 1485 1475 1480 1.696 1.048 3.71
TT Coupe/RS Audi 2505 1565 1545 1555 1.611 0.996 3.9
Z4 35i BMW 2495 1510 1535 1522.5 1.639 1.013 3.8
M4/M3 BMW 2810 1580 1605 1592.5 1.765 1.091 4.47
750Li BMW 3210 1620 1630 1625 1.975 1.221 5.22
750i BMW 3070 1620 1630 1625 1.889 1.167 4.99
540i BMW 2975 1600 1595 1597.5 1.862 1.151 4.75
320i BMW 2810 1530 1570 1550 1.813 1.12 4.36
MINI Cooper BMW 2495 1500 1500 1500 1.663 1.028 3.74
Super 7 480 Caterham 2225 1336 1336 1336 1.665 1.029 2.97
Corvette Conv. Chevrolet 2685 1575 1540 1557.5 1.724 1.065 4.18
Copen Daihatsu 2230 1310 1295 1302.5 1.712 1.058 2.9
California T Ferrari 2670 1630 1605 1617.5 1.651 1.02 4.32
488 Spider Ferrari 2650 1679 1647 1663 1.594 0.985 4.41
Accord LX Honda 2775 1585 1585 1585 1.751 1.082 4.4
Fit Honda 2530 1480 1470 1475 1.715 1.06 3.73
S660 Honda 2285 1300 1275 1287.5 1.775 1.097 2.94
F-Type Jaguar 2622 1597 1649 1623 1.616 0.999 4.26
Aventador LP750-4 Lamborghini 2700 1720 1680 1700 1.588 0.981 4.59
ELISE Sport220 Lotus 2300 1455 1505 1480 1.554 0.96 3.4
Atenza Sedan Mazda 2830 1585 1575 1580 1.791 1.107 4.47
Roadster ND Mazda 2310 1495 1505 1500 1.54 0.952 3.47
P1 McLaren 2670 1658 1604 1631 1.637 1.012 4.35
SLC200 Mercedes 2430 1550 1555 1552.5 1.565 0.967 3.77
SL550 Mercedes 2585 1610 1635 1622.5 1.593 0.985 4.19
GT-R Nissan 2780 1590 1600 1595 1.743 1.077 4.43
Fairlady Z Nissan 2650 1535 1540 1537.5 1.724 1.065 4.07
Fuga Nissan 2900 1575 1570 1572.5 1.844 1.14 4.56
Note Nissan 2600 1480 1475 1477.5 1.76 1.088 3.84
ELGRAND Nissan 3000 1600 1600 1600 1.875 1.159 4.8
Boxter/Cayman Porsche 2475 1515 1530 1522.5 1.626 1.005 3.77
911Carrera Porsche 2450 1540 1520 1530 1.601 0.989 3.75
911 Turbo S Porsche 2450 1540 1590 1565 1.565 0.967 3.83
Macan Porsche 2805 1655 1650 1652.5 1.697 1.049 4.64
Cayenne Porsche 2895 1655 1670 1662.5 1.741 1.076 4.81
Panamera Porsche 2950 1670 1660 1665 1.772 1.095 4.91
MEGANE RS Renault 2640 1590 1545 1567.5 1.684 1.041 4.14
Fortwo Smart 1875 1470 1470 1470 1.276 0.789 2.76
Swift RS Suzuki 2450 1480 1485 1482.5 1.653 1.022 3.63
Prius Toyota 2700 1530 1540 1535 1.759 1.087 4.14
Crown Toyota 2850 1545 1545 1545 1.845 1.14 4.4
Century Toyota 3025 1575 1575 1575 1.921 1.187 4.76
Estima Toyota 2950 1545 1550 1547.5 1.906 1.178 4.57
Voxy Toyota 2850 1500 1480 1490 1.913 1.182 4.25
Harrier Toyota 2660 1570 1570 1570 1.694 1.047 4.18
86/BRZ Toyota/Subaru 2570 1520 1540 1530 1.68 1.038 3.93



これを,W/T比の小さいクルマ順(トレッドがホイールベースに対して広い順)にソートし直したのが下表です.スマートのフォーツ-はやや特殊とすると,アルファロメオ4Cの0.907という値は優れて特徴的です.その次にくるのが,我らが(ユーザーでもないのにすみません)マツダ・ロードスター.ロータス・エリーゼやイタリアン・スーパーカーを抑えてのこの位置は,NDのレイアウトに対する明確な意図を感じます.

もう少し下に行って,黄金比に最も近いレイアウトをもつクルマとしては,今回調べた中ではまずジャガー・Fタイプ,アウディ・TTクーペ/RS,ポルシェ・ボクスター/ケイマンという順です.このあたりまでは基本的に2座のクルマによって占められています.私のZ4 35iも1.013と実はかなり黄金比に近いですね.

ここから表の下へ行くに従って,「走る」から「運ぶ」目的のクルマが増えてくるようです.道路の幅は拡げられないので,人・モノをたくさん運ぼうとするとクルマを前後に長くするしかなく,その要請にしたがってホイールベースも長くなるからでしょう.



Name Brand WheelBase Tread
(F)
Tread
(R)
Tread
(Ave.)
W/T Ratio W*T
[mm] [mm] [mm] [mm] [-] [-] [m2]
Fortwo Smart 1875 1470 1470 1470 1.276 0.789 2.76
4C/Spider Alfa Romeo 2380 1640 1605 1622.5 1.467 0.907 3.86
Roadster ND Mazda 2310 1495 1505 1500 1.54 0.952 3.47
ELISE Sport220 Lotus 2300 1455 1505 1480 1.554 0.96 3.4
SLC200 Mercedes 2430 1550 1555 1552.5 1.565 0.967 3.77
911 Turbo S Porsche 2450 1540 1590 1565 1.565 0.967 3.83
Aventador LP750-4 Lamborghini 2700 1720 1680 1700 1.588 0.981 4.59
488 Spider Ferrari 2650 1679 1647 1663 1.594 0.985 4.41
SL550 Mercedes 2585 1610 1635 1622.5 1.593 0.985 4.19
911Carrera Porsche 2450 1540 1520 1530 1.601 0.989 3.75
TT Coupe/RS Audi 2505 1565 1545 1555 1.611 0.996 3.9
F-Type Jaguar 2622 1597 1649 1623 1.616 0.999 4.26
Boxter/Cayman Porsche 2475 1515 1530 1522.5 1.626 1.005 3.77
Abarth 595 Abarth 2300 1415 1410 1412.5 1.628 1.006 3.25
P1 McLaren 2670 1658 1604 1631 1.637 1.012 4.35
Z4 35i BMW 2495 1510 1535 1522.5 1.639 1.013 3.8
California T Ferrari 2670 1630 1605 1617.5 1.651 1.02 4.32
Swift RS Suzuki 2450 1480 1485 1482.5 1.653 1.022 3.63
MINI Cooper BMW 2495 1500 1500 1500 1.663 1.028 3.74
Super 7 480 Caterham 2225 1336 1336 1336 1.665 1.029 2.97
86/BRZ Toyota/Subaru 2570 1520 1540 1530 1.68 1.038 3.93
MEGANE RS Renault 2640 1590 1545 1567.5 1.684 1.041 4.14
Harrier Toyota 2660 1570 1570 1570 1.694 1.047 4.18
Giulietta Alfa Romeo 2635 1555 1555 1555 1.695 1.048 4.1
Mito Alfa Romeo 2510 1485 1475 1480 1.696 1.048 3.71
Macan Porsche 2805 1655 1650 1652.5 1.697 1.049 4.64
Copen Daihatsu 2230 1310 1295 1302.5 1.712 1.058 2.9
Fit Honda 2530 1480 1470 1475 1.715 1.06 3.73
Corvette Conv. Chevrolet 2685 1575 1540 1557.5 1.724 1.065 4.18
Fairlady Z Nissan 2650 1535 1540 1537.5 1.724 1.065 4.07
Cayenne Porsche 2895 1655 1670 1662.5 1.741 1.076 4.81
GT-R Nissan 2780 1590 1600 1595 1.743 1.077 4.43
Accord LX Honda 2775 1585 1585 1585 1.751 1.082 4.4
Prius Toyota 2700 1530 1540 1535 1.759 1.087 4.14
Note Nissan 2600 1480 1475 1477.5 1.76 1.088 3.84
M4/M3 BMW 2810 1580 1605 1592.5 1.765 1.091 4.47
Panamera Porsche 2950 1670 1660 1665 1.772 1.095 4.91
S660 Honda 2285 1300 1275 1287.5 1.775 1.097 2.94
Atenza Sedan Mazda 2830 1585 1575 1580 1.791 1.107 4.47
320i BMW 2810 1530 1570 1550 1.813 1.12 4.36
Fuga Nissan 2900 1575 1570 1572.5 1.844 1.14 4.56
Crown Toyota 2850 1545 1545 1545 1.845 1.14 4.4
540i BMW 2975 1600 1595 1597.5 1.862 1.151 4.75
ELGRAND Nissan 3000 1600 1600 1600 1.875 1.159 4.8
750i BMW 3070 1620 1630 1625 1.889 1.167 4.99
Estima Toyota 2950 1545 1550 1547.5 1.906 1.178 4.57
Voxy Toyota 2850 1500 1480 1490 1.913 1.182 4.25
Century Toyota 3025 1575 1575 1575 1.921 1.187 4.76
750Li BMW 3210 1620 1630 1625 1.975 1.221 5.22



この表のままだとクルマのサイズとの関係がよく見えてこないので,最初に言ったように2次元のマップを作ることにしました.見やすくするのにちょっと苦労しているので,これは次に回します.
(続く)

スポーツカーのホイールベース/トレッドは本当に黄金比なのか? -その1:まずは黄金比のこと

先日,ヱビスビールの350cc缶6本パックを買ったら「黄金比タンブラー」というオマケがついてきました.ここで黄金比というのは,ビールを注いだときの泡の比率が3:7がベストだということを言っています.こういう企画を作る人たちも当然わかっていて使っているのですが,もちろん「黄金比」あるいは「黄金数」は正しくはそんな数ではありません.

実は8月の盆休み,今年は元々遠出ができる時間もなく,休み明けの仕事の準備をせざるをえない状況でした.暑すぎて何を考える気にもならないでいる日,たまたまポルシェの営業さんが置いていった立派な全車カタログを見ていて,唐突に「スポーツカーのホイールベース/トレッドは黄金比になるように設計されている」という都市伝説(?)を思い出しました.

結論をまず言うと,設計者がそれを“狙って”図面を描いているなどということは決してありません.雑誌やブログなどでそういう記事を見かけても,そんなのは完全な嘘っぱちなので信じないで下さい.ただ今回,私が集めてみたデータを見ると,調べた車種にはかなり偏りがあるにせよ,黄金比を基準に整理するのは結構面白いのではないかと感じました.上のような伝説がささやかれるのもあながち理由のないことではない気がしたので,2~3回に分けてまとめてみようと思います.

黄金比に相当する数学概念としては,紀元前3世紀頃の編纂とされるユークリッドの『原論』第6巻30に外中比として現われるのが最初ではないかと言われています.『原論』中の記述とは異なりますが,説明のため下の図のような横長(x>1)の長方形A を考えます.この短辺で構成した正方形Bと,残りの縦長長方形Cとに分割したとき,Cを90°回転した横長の長方形が,もとの長方形Aと相似となるような縦横比とはどうあるべきでしょうか.

goldenRatio.jpg
相似の条件として簡単な比の計算より二次方程式
20170910.gif

が導かれ,ここから当然二つの解
20170910_1.gif
が得られますが,長辺はこのうち正の方の値となり,
20170910_2.gif
これが黄金数と呼ばれる無理数で,そもそも3:7のような整数比で表わすことはできません.また,負の解の方もちゃんと意味があるのですが,あまりそのことに触れた解説はないのかな? といっても特に難しいことではないので,もしこれをここまで読んで関心を持たれた読者がおられたとすれば,ご自身で考えてみられるのも楽しいと思います.

さて,黄金数の幾何学的解釈の一つが上の外中比ですが,西洋ではその自己完結性からこの比率が絶対化され,視覚的な美観と関連づけられてきました.この比をもつ長方形は黄金長方形と呼ばれて,最も美しいとされました.しかし人間の視覚ほど当てにならないものもなく,「大体これくらいの縦横比が安定感がある」という程度の話とは区別しなければなりません.スポーツカーのホイールベース/トレッド比が黄金比だから優れているなどという迷信も,何となく神秘的な数というところからくるのかもしれませんね.

黄金数は意外に思えるようなところで現われる不思議な数です.たとえば12~3世紀頃のイタリアの数学者Fibonacci(フィボナッチ)が,ウサギの個体数の増殖モデルとして考えたと言われるフィボナッチ数列.
1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144,...
というものですが,各項の値がその一つ前ともう一つ前の項を足し算したものになっています.数式で書くと,
20170910_4.gif
となりますが,隣り合う2項の比を見ていくと,
1,1 → 1
1,2 → 2
2,3 → 1.5
3,5 → 1.6666...
5,8 → 1.6
8,13 → 1.625
13,21 → 1.6153...
21,34 → 1.6190...
34,55 → 1.6176...
55,89 → 1.6181...
89,144 → 1.6179...
となって,大きくなったり小さくなったりしながら徐々に黄金数に近づいていくことがわかっています.フィボナッチの考えたウサギの増殖ルールは次のようなものです.
 1. 1つがいの子ウサギは,1年で親ウサギになる
 2.親ウサギとなった1つがいは,その1年後から毎年1つがいずつ子ウサギを産む
 3.ウサギが死ぬことはない
ウサギの繁殖能力は個体ごとに異なりますし,そもそも不死身のウサギなんているわけないので,こんな無茶な話はありません.しかしこれが生物個体群の増殖パターンの本質をついて実に奥が深いのです.ウサギの頭数が増える比率が一定になるということは,すなわち指数関数だということです.つまり,このモデルでいけば,「時間が十分経った後,ウサギの個体数は黄金数を底とする指数関数に従って増えてゆく」のです.

以上,読み返してみると「やっちまった感ハンパない」とか言うんでしょうかね.結局スポーツカーと何の関係もないことを書いている.タイトルとはかけ離れていて怒られそうですが,次はもう少しちゃんとします.
(続く)



自動車の側面衝突-砂川暴走事故に思うこと

1997年,パリでダイアナ妃の乗ったメルセデスがパパラッチ達をまこうとして高速度で事故を起こし,乗員4人のうちダイアナ妃を含む3人が亡くなりました.直後,ダイムラー・ベンツは声明を発表し,「時速200kmで衝突して乗員を安全に保護することのできる自動車は今のところ存在しない」と明言しました.実際には200km/hまでは出ていなかったとされていますが,メルセデスの安全性に疑義がもたれることに対して先手を打った形でした.実際,前面衝突の安全性は固定壁に対してせいぜい55km/hで評価されているにすぎず,それほどの高速での安全性能はどんなクルマを持ってきても保証されていません.むしろ,シートベルトをしていた1人は助かっていることから,キャビンの生存空間が何とか保たれたという点で優秀な車体であったことが推察されます.

前置きが長くなりましたが,本年6月6日に北海道砂川市で起こった痛ましい事故の報に接し,思い出したのはこのダイアナ妃の事故でした.衝突形態は典型的な側面衝突で,上に記した事故とはまったく違いますが,時速100kmを超える速度で側面から衝突された場合に乗員を確実に保護できる車体は,軽自動車・普通車を問わず今現在存在しないと言わざるをえません.死亡事故となった原因は,たとえ軽自動車だからといって車体の脆弱性に求められるべきではなく,あくまでもひどい無謀運転にあると考えるべきです.

事故を起こした連中のふるまいについては言わずもがなで,あえて触れません.私自身も叩けばホコリな人間であることは先日も白状したとおりで,何か言っても「オマエが言うな」となることは明白です.ここでは,事故後の断片的な映像を見て私が感じたことを,安全対策技術の立場からメモしておきたいと思います.

もっとも指摘したいことは,軽ワゴン車の側面に衝突したクルマが車高の高いいわゆるSUVであったことです.ほとんどのクルマの前部構造にはフロントサイドメンバと称する部材がAピラー下端から前方へ延びており,前面衝突の場合はこれが軸方向に潰れて衝突のエネルギーを吸収するように設計されます.フルラップに合わせるとオフセットで変形が大きくなりすぎるので,前突と言っても異なる二つの衝突形態に対応できるようにチューニングされます.

側面衝突の場合は,この頑丈に作られたフロントサイドメンバーがドアめがけて突っ込んでくることになります.この状況を模擬した側面衝突試験が行われていますが,欧州と北米では形式が異なり,日本では欧州と同じ試験方法を採用しています.ムービング・バリア(MDB)と呼ばれるアルミハニカム構造の模擬車体を先端に付けた台車を50km/hで斜めに走らせて被試験車の側面にぶつけます.

側面衝突対策の難しさは,衝突荷重をドアという艤装部品で受けなければならない点にあり,各ピラーがどれだけ変形量の抑制に寄与するかとともに,サイドシルの役割が大きいと言えます.突っ込んでくる車体をサイドシル上端に少しでも干渉させられれば,MDBに押されたドアのキャビンへの陥入を抑えられます.

現在の側突試験に用いられているMDBの下端高さは300mmであり,これは一般的なセダンタイプの車体を想定したものです.一方で,SUVと称されるクルマのフロントサイドメンバの下端高さは,一般的なセダンの平均値370~380mmに較べて少なくとも20~30mm程度は高いとみるべきです.高い位置でぶつかってくる車体が,衝突された車体に対してより大きなダメージを与える傾向にあることは古くから指摘されています.

新しく市場に投入されるクルマの車体が大型化している現状で,MDBの下端高さが300mmというのは,やや現実的でなくなりつつあるのではないか.しかも,側突試験に用いる台車全体の重量は950kgと決められており,これでは軽自動車並です.SUVには大型車も多く,そうした1.5tを超えるような重量を持つ背の高いクルマが衝突することも,今後評価基準の中に入れていかなければならないように思います.

衝突安全のアセスメントのための試験方法は国土交通省が定めていますが,現在の自動車技術の水準とかけはなれたものにならないように配慮はされています.ここのところはメーカーとの間の阿吽の呼吸があるわけですが,上述のように現在の交通事故の実態状況と合わない部分も出てきているので,見直しが必要な部分は議論していかなければなりません.私の目から見ると,砂川事故は一種の警告に映ります.

ところで,車高の低いクルマは横からぶつかられると被害が大きくなる傾向にあることは繰り返しておかなければなりません.私のZ4を含め,オープン2シーターはほとんどあてはまりますよね.それがカッコいいと信じてさらに車高を落としているクルマをたくさん見かけますが,サスペンションのストロークが短くなってバンピーな公道では危ないし,ろくなことはありません.市販車の設計はいくつかの要求のトレードオフを何とか満たすところで決定されていて,適当に手を入れたところで全部が良くなるなんてことはありません.買ったまま乗るのが結局は最善だと考えます.

BMW 435i グラン・クーペ M Sport

法事出席のため,どうしても4人乗れるクルマが1日だけ必要なんだけど,4枚ドアなら何でもいいから貸してくれない?  そう言ってBMWディーラーの担当営業さんに頼んでみたら,用意してくれたのが,これ.

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ボディカラーはあまり法事向きとは言えませんが,ずいぶん頑張ってくれたと思います.Z4の次はこれどうですかという提案でしょうね.エンジンは同じ排気量3Lのダブルカム直6ですが,N54B(Z4)とN55B(435i)で型番は違います.これは過給のシステムが改良されたことによる変更ですが,スペックはほぼ同じです.トルクバンドが下へ少し延びていることで,低速でのトルク感が補強されますが,ピークパワーには関係がありません.

最高出力(kW〔ps〕/rpm(EEC))最大トルク(Nm〔kgm〕/rpm(EEC))
Z4 35i225〔306〕/5,800400〔40.8〕/1,300-5,000
435i225〔306〕/5,800400〔40.8〕/1,200-5,000


Z4から乗り換えるのに動力性能がダウンするとガッカリ感があるので,このエンジンは外せない.3シリーズではやや実用性が前面に出すぎるし,かといって私が大きなクルマが嫌いなことを営業さんはよく知っているので,サイズ的にはこれが上限.実用性と運動性の両立を考えるなら,これしかないですよという提案.

同乗者と私で計4人が乗って走り出してみましたが,同乗者のスタンダードからすると乗り心地に固さを感じたようです.M Sportという仕様でタイヤは扁平,足回りの設定も少し異なるのかもしれません.しかし,普段Z4の突き上げに耐えている私と妻からすれば,きわめて安楽といっていい乗り心地です.排気音・エンジン音も低く抑えられています.

デフォルトの走行モードは,4段階あるうちの緩い方から2段階目の“コンフォート”です.ステアリングは軽く,いつもの調子で切るとつい切りすぎに.トレッドも若干広いし,ホイールベースは300mm以上も長く,しかも4人乗っているせいで全体がゆったり動く感じです.モードを“スポーツ”にするとステアリングの手応えが増し,エンジンも活気を注入されますが,どこか穏やかな感触が残ります.

変速機はZ4のDCTとは違ってトルコンATです.しかも8速! 滑らかすぎていつ変速してるかわからないくらいです.ネット上のインプレッションでは,このATがずいぶん褒められています.確かにいいです.パドルシフトの応答もDCTと遜色ないですね.しかしアクセルを踏み込んだ時のダイレクト感にはやはりはっきりとした差があり,ちょっとギクシャク感の残るDCTはやはり機械式クラッチだなあと再認識しました.

視点がZ4に比べるとずっと高いし,何より鼻先を意識する度合いがまったく違います.狭い道をクルクル曲がっていると,妻から「初めて乗るのに普段よりずっと滑らかだよ」とのコメントが.ううっ,痛いところを突くなあ.ついでに言うなら,パーキングブレーキが伝統的なレバー形式に戻っているのは大賛成です.形式が古典的なだけで実は電動なのかどうかわからないのですが,少なくともZ4に搭載されているパーキングブレーキのように動作が遅くてイライラすることはありませんでしたし,ここの形式を変えて喜ぶ人なんかいないと思います.

結局のところ,これに乗ってZ4-35iがいかに荒々しい乗り物かを再認識しました.無論比較の問題ですが,路面の状況,エンジンの回転数がダイレクトに乗り手に伝わってくるという意味で,動力性能が同等でもやはり4枚ドアの箱グルマとは手応えが大いに違います.“クーペ”という呼称ですが,ドライブのためのドライブをするにはちょっと刺激がなさすぎるかな.いずれにしても,楽しめたのは事実です.営業さんありがとう.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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