キーロフ(マリインスキー)歌劇場管弦楽団の『春の祭典』

前エントリからの関連です.
ウリヤーナ・ロパートキナの所属するマリインスキー・バレエは,サンクトペテルブルクのマリインスキー歌劇場付属のバレエ団です.サンクトペテルブルクがソ連時代にはレニングラードと呼ばれていたように,マリインスキーもキーロフ・バレエと呼ばれていたのが,連邦崩壊後に元の名称に戻されたということらしい.

世界の5大バレエ団と呼ばれる中には,ロシアのバレエ団が二つ入っていて,一つがボリショイ,もう一つがこのマリインスキーです.もちろん付属のオーケストラも大変な実力がありますが,ワレリー・ゲルギエフがマリインスキー劇場の音楽監督・総裁になってからは,日本国内の公演ではこの管弦楽団の名前をよく耳にするようになった気がします.

ところで今の季節,特に二十四節気の「啓蟄」という言葉を聞く時期になると必ず思い出すのが『春の祭典』.原始主義時代のストラヴィンスキーが書いたバレエ曲の最高の成果と言っていいと思います.私も何枚かのディスクを持っていますが,マリインスキー関連という文脈でいくと,この超有名盤があります.


ストラヴィンスキー:春の祭典/スクリャービン:法悦の詩
クラシック音楽


指揮はもちろんゲルギエフで,1999年の録音.賛否両論かまびすしい演奏ですが,太陽に照らされた大地の匂いがむせかえり,聴いているこちらの身体の奥底からむずむずと得体の知れないエネルギーが湧き上がってくるようです.優秀な録音で,特にティンパニやグランカッサの生々しさ,金管楽器の輝かしさと,空間を感じさせる木管楽器の録り方が印象的です.ただ,CDのクレジットではオケの名称は「キーロフ・オーケストラ」となっていて,1999年になってもこう呼ばれていたのか,そのあたりの事情は私にはわかっていません.

この曲の初演は1913年,フランス・シャンゼリゼ劇場で,振付はもとマリインスキー・バレエでその天才を認められたヴァーツラフ・ニジンスキーです.この時は聴衆が支持・不支持に分れて大混乱となり,けが人まで出る騒ぎになったそうです.この曲が賛否両論を巻き起こすのはこの初演の時からの伝統みたいですね.争いは嫌いだけれども,音楽でそこまで熱くなれる時代に生きているというのは,それはそれで羨ましい気もします.

ドメニコ・スカルラッティのピアノソナタ集

最近は美術展に行くと必ず音声ガイドを借りるようになりました.料金はどこでも600円のことが多いですが,知識をもって鑑賞しているわけではない私のような者にとっては,鑑賞のための一つの視座を与えてもらうことで,ただ眺めていては気づかないことにも意識が向くようになってありがたいものです.

先日見に行ったジョルジョ・モランディ展でも,いつもと同じくガイドを借りました.ガイド役は京都大学大学院の岡田温司氏と,兵庫県立美術館学芸員の江上ゆかさんですが,二人ともこの画家に対する愛情と敬意が感じられ,かつ専門家らしく余計な色付けのない解説ぶりで大変好感が持てました.こういうところはやはり俳優など使わない方がいいですね.

ところで,この時の音声ガイドのバックに流れていた音楽が大変品格の高いピアノ曲で,どこかで聴いた気はするけど誰の作かわからなくて気になっていたのでしたが,そのうちよく知っている曲が鳴り,そこでやっとこれがドメニコ・スカルラッティ作曲の鍵盤曲であることがわかりました.

スカルラッティはバッハやヘンデルと同じ年の生まれで,数百曲におよぶ鍵盤曲を作曲しました.わざわざ鍵盤曲というのは,この時代はまだ現代ピアノに相当する楽器は存在せず,チェンバロで演奏されることを想定して書かれましたが,現代ではやはりピアノで弾かれることも多いからです.

この作曲家の何百曲もあるソナタ形式の鍵盤曲をすべて私が知っているわけもなく,私が持っている下のCDで馴染んでいる曲が出てきてはじめてわかったという次第です.このディスクについては,以前少しだけ触れたことがあります



スカルラッティ:ソナタ集
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同じイタリア人芸術家同士とはいえ,時代ははるかに隔てられています.印象主義の画家とドビュッシーを結びつけるのはまあわかりやすいとしても,モランディのバックにスカルラッティを持ってくるためには,やはりヨーロッパ芸術に通暁し,なおかつ彼ら二人の芸術が共有するものを見抜いている必要があります.

人間の物語とは少し距離を置き,一方はチェンバロという鍵盤楽器で響きの可能性を追求し,他方は極めて限定されたモチーフを通して純粋な光と色と形の関係を理解しようとした.生み出された作品はどちらも静謐で,気高い精神の存在を感じさせるという特質を持っています.音楽と絵画という様式は違っても,彼らは200年という時を隔てた双生児のようです.


アルヴォ・ペルトの無伴奏合唱曲を中心に聴く

今年はみごとな無伴奏合唱のグループを二つ聴きました.一つは6月のタリス・スコラーズ,もう一つが10月のスウェーデン放送合唱団です.

その両方で採り上げられていたのが,アルヴォ・ペルトでした.私自身はこれまでこの作曲家のことはほとんど知らなかったのですが,最初にタリス・スコラーズで聴いた“Which Was the Son of... ”(彼は誰々の息子だった)に強い感銘を受けました.短いフレーズの循環的な繰り返しは,ミニマリズムの作曲家たる所以なのでしょうが,そうした一見単純な構造の中での絶え間ないゆらぎの中に,聴き手を音楽を聴く行為に没入させる力を感じます.

そんなわけで,ベルトの曲集を3枚買ってみました.最初のものは当のタリス.スコラーズが歌った“Tintinnabuli”.6月のステージで聴いた曲も入っています.言うまでもなく美しい作品なのですが,実際にコンサートホールで聴いた音が耳に残っているので,CDではやや硬質な音色が気になりました.ライブではもっともっとホールトーンが暖かかったです.


Part: Tintinnabuli
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次はベルト音楽のベスト集.合唱だけでなく,器楽曲も入っています.こうしたものは普通聴く前から散漫な感じがして避けるのですが,このディスクに関しては録音も良く,総じて耳なじみの良い曲が入っているので,穏やかな気分へ導いてくれます.
やはり,“Summa”や“Seven Magnificat Antiphons”などの精妙な無伴奏合唱曲には惹かれます.宗教曲なのに,キリスト教独特の痛々しさというか,抹香臭いようなところが一切ありません.「仏教徒のオレがこんなの聴いて感動したとしても所詮は借り物」みたいな気分に陥らずにすみます.汎人類的な音楽.


Very Best of Arvo Part
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最後は,上のベスト版にも入っている“Spiegel im Spiegel”(鏡の中の鏡)を中心にまとめたアルバムです.この曲には伴奏ピアノとヴァイオリン,ヴィオラ,チェロという三つのバージョンがあって,それらが配された間に他の曲が挿入されるという構成になっています.“Spiegel im Spiegel”はまさにミニマリズムを体現した曲.瞑想的で静的な音楽です.確かにこれが3曲続くと退屈かもしれませんが,静かに内省を促されたいような時は効果があるかもしれません.


鏡の中の鏡‾ペルト作品集(SACD)(Arvo Part:Spiegel im Spiegel)
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シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番&第2番

戸田弥生のリサイタルで聴いたシューマンのヴァイオリン・ソナタ第2番.CDを持っていなかったので,芸文センター小ホールで売っていた戸田とエル=バシャが共演した録音を買おうと思ったのですが,エクストンの新譜CDはちょっと高い.3000円を超えると躊躇してしまい,amazonなら少し安いかもと思ってその場では手を引っ込めてしまいました.

家へ帰ってから注文したのは結局これ.フランクの録音はいくつか持っているし,シューマンの第1番も聴いてみたかった.戸田さんごめんなさい.阪神間でのリサイタルはこれからも必ず聴きに行きます.


シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番&第2番
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クレーメルとアルゲリッチの共演作はこれ以外にも数多く残されており,私も何枚かを持っていますが,この録音はこれまでノーマークでした.第1番,第2番とも短調で,ロマンの香り溢れる点が逆に胃にもたれると感じる向きもあるかもしれませんが,いずれも翳りのある情熱に満ちた魅力的な作品であることがよくわかりました.

第1番の方は3楽章構成とコンパクトで,しかも中間楽章の美しさ・高潔さで到底2番には及ばないとは感じますが,それでも繰り返し聴いていくと次第にその控えめな表現の中にある種の強靱さを感じ取ることができるようになります.

第2番は感情表現の幅が1番にくらべてはるかに拡がっており,悲嘆,自分への鼓舞,祈り,勇気というような感情や態度が聞こえてくるように思えます.もっとも音楽にとってこんなコトバを当てるのはあまり意味のないことなのでしょうが.クレーメルとアルゲリッチの表現は戸田とエル=バシャの演奏に較べるとやや明るめな印象ですが,これこそ表現者の個性であって,私はどちらも好ましく受け入れられます.それにしても第3楽章は美しい.素朴で,懐かしい.


シベリウス管弦楽曲集:パーヴォ・ベルグルンド

先日エサ=ペッカ・サロネンのシベリウスを聴いたわけですが,フィンランド人でシベリウスの専門家としては何といってもパーヴォ・ベルグルンド(1929 - 2012)が有名です.シベリウスの7曲の交響曲全集を3度も録音した人ですが,私が持っているのは下.


Sibelius : The Complete Symphonies & Tone Poems
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CD8枚のボックスセットで,交響曲だけでなく今回聴いた交響詩『フィンランディア』や『タピオラ』,アンコールで演奏された『悲しきワルツ』が含まれる劇音楽『クオレマ』など,シベリウス作曲の主要な管弦楽曲が入っています.

やはりヘルシンキ響を指揮した7つの交響曲の録音がすばらしいと思います.録音も良く,シベリウスの音楽に特有な透明でひやりとした空気感がよく伝わります.それ以外はボーンマス響との録音で,こちらの音はややぼんやりした印象.どうしても手に取るのは交響曲の入ったディスクに偏りがちです.

それでも,交響曲以外のものも聴いてみたいというところまでシベリウスが好きになったら,こういうセットを持っているのも悪くないと思います.ただ,私が買ったときにはお得感があったこのセットですが,現在は手に入りにくくなっているようで,アマゾンのマーケットプレイスで非常に高い値段がついています.海外のサイトで探した方が安いようですが,ちょっともったいないですね.何とか維持してもらいたいものです.

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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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