理髪店で聴いたジャズ -「ウォーター・ベイビーズ」 マイルス・デイヴィス

1976年マイルス引退期間中に発表された60年代未発表音源集.アナログ盤で聴かせてくれました.


ウォーター・ベイビーズ
ジャズ

このブログでマイルスの作品を採り上げるのは初.それがこの「アルバムにまではできなかった残り物集」というのは,しかし私としては何の意図もありません.残り物だろうと何だろうと,やはりこの音楽は到底「聴き捨てならない」ものを持っています.

A面が1967年6月,B面が1968年11月の録音.エレクトリックマイルス移行期にあたり,A面は“あの”クインテットなのに対し,B面はキーボードでハンコックに加えてチック・コリアが入り,ベースはデイヴ・ホランドに替わっています.マイルス名義とは言え,アルバム5曲中4曲までがウェイン・ショーターのオリジナルで,特にA面はこの人独自の漆黒の世界を,マイルスのトランペットが時に切り裂き,時に漂うといった風情.

A面に収められた『Water Babies』, 『Capricorn』,『Sweet Pea』といった美・名曲群が怖ろしいほどの緊密感をもって迫ってくるの較べ,B面の2曲はさすがにやや散漫な印象を免れません.古典的なクインテットでやるべきことをやってしまったマイルスが,さらに前進するために行った実験と捉えるべきなのかもしれません.

なお,ショーター自身もまた,電子化路線上でこれら3曲の解体と再構築を進め,1969年にはブルーノートにおける自己名義盤『スーパー・ノヴァ』で再演しています.ジャック・デジョネット(ds),ミロスラフ・ヴィトウス(b),ジョン・マクラフリン(g)といった新時代の精鋭によって形成される土台の上で,ショーターはテナーではなくソプラノ・サックスだけを吹いています.そこにはいないマイルスとの二役を演じたかったのかもしれません.


スーパー・ノヴァ
ジャズ


神戸元町Jam Jamで聴いたジャズ -アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『チュニジアの夜』他

今年の阪神地域は暑い.毎年暑いけどさらに暑い.忘れもしない2010年,Z4を買ってオープンで走りたくて仕方がないのに,盆過ぎにこれからやっと涼しくなるかと期待していたら,盛夏がもう一度来てなお一ヶ月続いた酷暑の夏.あのパターンにとても似ている気がして,実に気が滅入ります.

先日,兵庫県立美術館で藤田嗣治展を見たあと,いつもなら阪急王子公園駅までの15分ほどを歩くのですが,白昼36℃の直射日光を浴びながらでは,私も妻もとても海岸にある美術館から駅までの登り坂を上る気になれませんでした.美術館から100mのバス停までやっと歩いて時刻表を見ていたら,幸運にもすぐにやって来た三宮行きのバスに問答無用で乗車.

三宮に着くと絵画鑑賞の疲れも回復していたので,久しぶりにJamJamに行くことを思いつきました.酷暑の海に浮かんだ都市部ヒートアイランドを元町まで歩き,たどり着いた店でかかっていたのが,メッセンジャーズの『チュニジアの夜』でした.この暑いのに,また追い打ちをかけるような暑苦しいものを.いやしかし,相変わらず凄い音で鳴っています.


チュニジアの夜


ウェイン・ショーターの加入によって,モードの風を吹き込まれた直後の名高いライブアルバム.およそジャズファンを自認する者なら,まずは自分で持っている作品です.でも録音されてすでに55年が経ち,いくらジャズ好きの日本人でも,こういうのを日常的に聴いている人は少ないでしょう.聴いたつもりになっている.そこへ,「オマエ,このアルバム持ってるって言うけど,ほんとに聴いたって言えるか? ここでもう一回ちゃんと聴いていけよ」というメッセージ.

最後のキレキレのカデンツァを聴きながら,ラッパ好きの妻が「いいトランペットだね,誰?」と聴いてきます.この奏者がリー・モーガンであることを教えながら,特段ジャズが好きという訳ではない者までわからせてしまう演奏と再生音に改めて感服します.こういうのは家で聴いてもホントにはわからんなと,ある意味降参させられました.

次にかかったのが,カル・ジェイダー・カルテットの『Saturday Night/Sunday Night At The Blackhawk, San Francisco』.CD化もされていないみたいだし,もちろん私は初めて聴きます.ジェイダーと言えばお気楽一方のラテン・ジャズで,とてもまじめに聴くような対象ではないと思っていたのですが,A面を聴く限り,このアルバムではそうしたラテン臭は封印しているようです.1曲目のサマータイムが始まると,ジェイダーのクールなヴィブラフォンがそれまでのメッセンジャーズの熱気を穏やかに冷却してくれるようでした.

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Saturday Night/Sunday Night At The Blackhawk, San Francisco


そしてこの日私が聴いた最後はロリンズの『ウェイ・アウト・ウエスト』.これも大有名盤ですね.誰でも知っていて,場合によっては「ジャズ入門盤」として推薦する人さえあるかもしれないようなディスクを続けてかけるのは,やはり店側のメッセージですね.優秀録音盤としても知られたピアノレス・トリオの編成です.

以前,大阪日本橋の河口無線の3階だったか4階だったかで,社長さん自らこのLPを聴かせてくれたことを思い出しました.その時使われていたのはオリジナルのHANIWAスピーカー.到底自腹を切って購入しようとは思えない姿をしていましたが,音は素晴らしく,シェリー・マンのバスドラのヘッドが振動する様がまるで目に見えるようでした.JamJamの音にはそういう繊細さはありませんが,そのかわりロリンズのテナーがすさまじく爆裂して「とにかく今オレが言ってることを聴け」と迫ってきます.


ウェイ・アウト・ウエスト+3


ここにはたまにしか来ないけど,来ると必ず収穫があります.シフォンケーキとコーヒーで3枚聴かせてもらって,夕暮れの神戸の街に出ました.昼間の酷暑が少しやわらいだようでした.

理髪店で聴いたジャズ -「アルト・メモリーズ」

理髪店の予約時間5分前に着き,ドアを開けるといきなりこのアルバムに入っている『Lonely Woman』が耳に飛び込んで来ました.


アルト・メモリーズ
ジャズ

ゲイリー・バーツとソニー・フォーチュンというほぼ同い年のベテランサキソフォン奏者による,歴史上のジャズ・ジャイアンツに対するトリビュート作品.『Lonely Woman』は,言うまでもなく1960年オーネット・コールマンの名高い「ジャズ来たるべきもの」A面第1曲です.現代の町をいくら歩いて探したって絶対に聞こえてこないタイプの音楽の強い磁力が,空間をそのものを歪ませているかのようです.

この曲の持つそうした魅力に惹かれてか,過去多くの先鋭的なジャズマン達がこの曲を採り上げてきました.オリジナル・アルバムで,オーネットとドン・チェリーがほとんど即興的演奏をしていないことも,彼らの想像力をかきたててきたのかもしれません.このアルバムでは,ソニー→ゲイリーの順でソロを演奏します.ソニーの方は前奏で設定されたテンポをそのまま踏襲しますが,ゲイリーはやや速めた演奏.片やジョン・コルトレーンに心酔し,他方はスピリチュアルな演奏で名を馳せた演奏者であり,こういう曲には個性が最大限に発揮されます.

アルバムの冒頭に置かれたオリバー・ネルソン作の大名曲『Stolen Moments』では,特にソニー・フォーチュンのフリーキーなトーンがよく活かされています.2曲目の『U.F.O』だけはバーツのオリジナルのブルースで,ここではソニーが抜けてバーツだけがソロを取りますが,もちろん快演です.

3曲目キャノンボール・アダレイのレパートリーとして有名なデューク・ピアソン作『Jeannine』.私はこういうファンキー・チューンが大好きです.しかし,二人のアルト奏者のソロはいずれも随所にコルトレーンライクなフレーズが聴かれ,いわゆるファンクネスの特徴とは異質なものを感じます.このアルバムが録音されたのは1994年ですが,この世代のサキソフォン奏者にとって,ジョン・コルトレーンの影響がいかに強烈であったかを改めて認識する演奏です.

この後も,ビバップ期からはジジ・グライスとチャーリー・パーカー,ハード・バップ期からはジャッキー・マクリーン,そしてオーネット・コールマンを経て最後はスイング期の名プレーヤーであるジョニー・ホッジスとベニー・カーターへ回帰して終わるところが構成上なかなかニクいところです.もっとも個人的にはやはり上に挙げた2,3曲が印象に残ります.どうしても本家の演奏が思い浮かんでしまうし,それを超えたところでオリジナルの表出を志すのはハードルが高いですね.トリビュート作品の難しいところです.

バルネ・ウィラン 『ティルト』

先日,行きつけの理髪店でブルー・ミッチェルの『アウト・オブ・ザ・ブルー』を聴いた後,支払いをすませたらポイントが貯まったのでCDを1枚どうぞとのこと.トレイに入っていた5枚ほどの中から選んだのがこれ.


ティルト+6
ジャズ

バルネ・ウィランと言えばやはり,ルイ・マル監督の映画『死刑台のエレベーター』の音楽で,マイルスの相方としてバンドに加わったテナー・サックスプレーヤーという肩書きが最初に来るでしょうね.サントラ音楽だけ取り出して聴くと,それだけではどうなのかなと感じる部分も多いですが,やはり映画の各シーンとすごくマッチしているとは言えると思います.

フランス人です.この『ティルト』を録音した時はまだ20歳.1950~1960年代に,アメリカ本土で不遇をかこったジャズ・プレーヤーたちを非常に暖かく,また敬意を持って迎え入れたのがパリの聴衆や芸術家たちで,若いウィランもそうした人々の一人だったはずです.

この『ティルト』は1957年のウィランのメジャー・デビュー作.時期的には『死刑台のエレベーター』と相前後します.どちらの録音が先だったのか,ちょっと調べればわかるのでしょうけど,私は今知らないので即答できません.このアルバムでは前半は歌物や,ジャズマンオリジナルでも比較的よく知られた曲をビバップ風に演奏しています.特徴的なのは,後半をすべてセロニアス・モンクのオリジナル曲で固めたところです.

この録音の数年前,モンクがパリに来てジャズ・フェスで演奏したのを聴いたのでしょう.鮮烈だったでしょうね.モンクの音楽は今聴いても唯一無二で,この当時はさぞかしカッコ良かったのだろうと思います.もちろん同じホーン奏者がモンクの曲を演奏するといっても,エリック・ドルフィーと比較するのは適当ではありません.後年フリー・ジャスに接近したりもするウィランですが,基本的には保守的な演奏家と考えた方がいいようです.モンク・ミュージックの底抜けの楽天性や,そうであるからこその毒気などはかなり和らげられ,比較的耳なじみの良い音楽になっています.

もちろん,弱冠20歳の音楽としてはかなり成熟していて,意外にCDラックから取り出す機会が増えるかもしれません.1990年代には,おそらくそう感じた日本人プロデューサーが作ったウィラン再発見アルバムがいくつかリリースされました.それらは結局最晩年の記録となりました.私はと言えば,セロニアス・モンクのオリジナル・アルバムを聴き返したりしています.晩年のウィランは,今の私にはやや枯れすぎてるかな.

理髪店で聴いたジャズ -「アウト・オブ・ザ・ブルー」 ブルー・ミッチェル 

ジャズのトランペッターと言えば,ここにはマイルス・デイヴィスでさえアルバム単位では一度も採り上げていないのに,ブルー・ミッチェルはこれで2枚目です.やはり好きなんでしょう.1958年12月録音.


アウト・オブ・ザ・ブルー+1
ジャズ

もっとも,マイルスのアルバム,特に名高いマラソン・セッションとか第2期のクインテットなどは,昔のジャズ喫茶なんかでも実はあんまりかかってなかったような気がします.まあコアなジャズファンにしてみれば,みんな聴いている一方でやや格調が高すぎるきらいもあるというところでしょうかね.

そうしたある意味「偉すぎる」作品に較べて,ブルー・ミッチェルのリーダー作などは,派手さはないし,もちろんジャズ史に残るといった転換点を示すものでもないけれど,特に日本のジャズファンの琴線に触れる特質をもっていて愛すべきところが多い気がします.

このアルバムの1曲目の『Blues On My Mind』からしてレイジーなブルースで,A面1曲目にこうした曲が置かれていること自体,いわゆる名盤の資格を欠いていると言えます.しかし,骨の髄からのジャズ好きにはこういうのもいいんですね.まあ天邪鬼というか.共演しているベニー・ゴルソンの書いた曲で,この曲に限ってはゴルソンのソロも曲想にマッチしたもので受け入れやすい演奏になっています.

2曲目の『It Could Happen To You』.ミッチェルはミュートを付けて演奏しており,クインテット編成であることからも,マイルスのアルバム「Relaxin'」を思い出さないジャズファンはいないと思います.マイルスの録音自体は1956年の5月と10月ですが,アルバムが発売されたのは1958年になってからです.もちろんミッチェルはこのアルバムを聴いていたと推測されますので,極めて短期間のうちに同じ曲を同じ編成で録音したことになります.

この曲でのミッチェルの演奏は,快活きわまりないマイルスに較べてややテンポが遅く,ソロのもっている印象も暗めです.1956年5月の時点ではまだぎこちなさの残るコルトレーンに対し,ゴルソンのソロはさすがに経歴を感じさせるものですが,だんだん音数が多くなってくるといつものように何かうるさい感じ.

3曲目の『Boomerang』はビ・バップ期の名トランペッター,クラーク・テリーの作.名曲です.冒頭のトランペットとテナーのユニゾンがかっこいい.先発のゴルソンもまずまず,ミッチェルのソロはここでは明るく快調そのものです.ピアノのウィントン・ケリーの躍動感もいいし,短いながらブレイキーのドラム・ソロも入っています.

そして4曲目.LPではB面1曲目にあたるこのミッチェルのオリジナル曲『Sweet-Cakes』における彼のソロこそ,本アルバム最高の聴き所です.とにかくこの乾いた哀感に彩られた文脈がすばらしい.そもそもの最初にも書いたように,誰が何と言おうと強固なB面1曲目党の私は,テーマがクサかろうがソロが陰鬱だろうが,この曲をいまだ熱烈に支持します.

この曲を聴いたあとで,5曲目の美しいバラード『Missing You』がまたいい.このアルバムでは,ベーシストは歌物ではポール・チェンバース,ファンキーな曲ではサム・ジョーンズと,二人の音色やフレージングの特質を活かした起用がなされていて,こうしたところも好感が持てます.

最後はポピュラーな『When The Saints Go Marching In(聖者が街にやってくる)』.ヘンなところに耳が行くようですが,直前のバラードで神々しいとさえ表現したくなるようなチェンバースのベースを聴いた後,その同じ彼が出すここでの強靱な音にまた深い感銘を受けることになります.

私にとっては,いろいろな視点から味わい深い1枚です.万人にお勧めというわけではないけれど.

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choby

Author:choby
最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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