理髪店で聴いたジャズ -「Art & Survival」 Dianne Reeves

この日はもう一つ,印象に残るアルバムがかかっていました.


Art & Survival
ジャズ

初めて聴きましたが,一聴してダイアン・リーヴスとわかるスケール感があります.身体全体が鳴っているような声質や,ブラックアフリカの自然志向.娯楽性は十分にあり,決して声高にプロテストを叫ぶわけではありませんが,黒人女性歌手として深いところでビリー・ホリデイに通底する血脈を感じます.

私は,2000年8月のニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾でこの人の演奏を聴きました.ダイアン・リーヴスの真価はライブでこそわかると言われますが,斑尾という自然に囲まれた屋外会場で,本当にスケールが大きく感動的なステージでした.登場して『モーニング・ハズ・ブロークン』で始めた時は,昼日中なのに夜明けのひやりとした空気を実際に感じたような気がしたほどです.『アフロ・ブルー』もドライヴ感満載で豪快そのものだった記憶があります.

内容は2000年発表の下記スタジオ・ライブアルバムにおおむね再現されていますが,やはり開放感ある屋外会場とスタジオでは弾け方がだいぶ違います.CDでは本人が「自分の家の居間にいるみたいにリラックスして聴いてね」と歌うシーンがありますが,本当にリラックスしたかったのは実はダイアン・リーヴス自身だったのだろうと思います.そういう意味でも,斑尾で聴けたのは良かった.開催されなくなって久しい斑尾ジャズフェスですが,何とか再開してほしいものです.


イン・ザ・モーメント~ライヴ・イン・コンサート
ジャズ

ジョニ・ミッチェルの『ヒジュラ-hejira』が懐かしかった話

30年以上前に亡くなった友人の墓参りに,今年も山口へ行ってきたことは前回書いたとおりです.午後に墓参りをした後,夜は宿で果てしなく話しながら飲み続けることになります.4人いたとしても麻雀やろうとはならないんですね.絶対に.

今回は私を含めて3人で,いずれも50代後半になっています.少なくとも私以外はなかなかの仕事をしており,学生時代のグダグタな生活ぶりから今を想像するのは難しかったですね.人間,持ち場を得れば-いや,それを見出すための格闘はそれぞれあったはずですが-それなりになっていくものだと感慨深いものがあります.

それでも,集まると先祖返りのように昔の習慣が顔を出すことがあります.たとえば,どうしてもBGMがないと酒が飲めないというのもそれです.私以外の2人はもと軽音なのでなおさらですかね.1人がカバンから5cm角くらいの小さなキューブ状スピーカーを取り出しました.これにスマホに入っている音源をBluetoothで飛ばして鳴らし始めました.その時にかかったうちの一つが標題のジョニ・ミッチェルです.


逃避行


『逃避行』なんて邦題がいかにも70年代風で古くさくカッコ悪いです.『hejira』の訳ですが,本来もっと歴史的で大きな概念なのに,『逃避行』ではなんか駆け落ちして逃げてるみたいな印象です.私だけかな,そんな風に感じるのは.しかし,音楽の内容はすごく立派で,軽薄なフュージョン・ミュージックが跋扈した時代に,ホンモノ感が満ちていました.ちょうど友人が亡くなった頃のアルバムです.みんな一人になるのが嫌で,しょっちゅう集まってはレコードをかけまくって飲んでばかりいました.その中の1枚ですね.

特に,何曲かに入っているジャコ・パストリアスのフレットレス・エレキ・ベースの演奏には,まったく痺れたものです.たった1人でオーケストラから出てくるような多彩な音を出していて幻惑されます.明確なベースラインはほとんど弾かないのですが,ジョニの歌にフィルインしてくるフレーズだけで,鳴ってもいないベースラインを聴き手の耳に響かせるような趣があります.ジョニ・ミッチェルの曲自体も,歌詞の意味はよくわからないのだけれど,痛々しいほどの切実さが昔も今も胸に迫ります.

このアルバムから数年経って,ポップ・ミュージック史上に残る(と私は思っている)ライブ映像がリリースされました.上のアルバム『hejira』に収められた曲を中心に,ジョニがジャコの他にもパット・メセニーやマイケル・ブレッカーを召集して作ったスーパーバンドのライブです.私が当時観たのはLD(レーザーディスク)です.VHSなどの他のメディア版があったのかどうか私にはわかりませんが,とにかくこの映像を見たくてLDプレーヤーを買ったという知り合いが二人います.今なら次のDVD版ですね.


シャドウズ・アンド・ライト[完全版] [DVD]


このライブは,極端な言い方をすればジョニとジャコが手に手をとって別世界へ突き抜けた瞬間を捉えたと言っていいと思います.私には,ジョン・コルトレーンがエルヴィン・ジョーンズに絶え間なく背中を押されて前人未踏のソロを演奏したシーンが思い起こされます.

しかしながら,たとえばジャコの演奏姿を見たいという人などには,このDVDは向きません.ほとんどの場面が引きで撮影されており,時たまアップになっても主役のジョニだけです.フラストレーションが溜まりますね.特に大傑作『hejira』ではジャコのベースがひときわ印象的なのに,演奏映像はまったくカットされて,ジョニと男性が氷上をスケートで滑るシーンが被せられてしまいます.

ジョニ・ミッチェルという人は美術での自己表現にも積極的な人で,映像作品にも彼女の意図を反映させたいという気持ちが強かったことは認めます.しかしごく客観的に言って,ここで行われている超絶的な演奏に較べてこうした映像はいかにも表面的で,そんなのはどうでもいいからとにかく演奏風景を淡々と流してほしかった.そう言ったらジョニは怒るでしょうかね.

そんな余計な不満に苛まれないためにも,このライブは普段はCDで聴くのが良いですね.


Shadows & Light


ただ,このアルバムを巡る事情も微妙なものがあって,DVDとCDで曲目が完全に一致しているわけではありません.1998年にCD2枚組の限定版がいわゆる完全版としてリリースされたのですが,私は買いそびれてしまいました.CD屋で何度も手に取っていたのに,まあ今さら聴かないかなと思ったのです.すぐに絶版になり,いまでは中古品に数万円の値がついてとても手が出ません.

馬齢を重ねてすっかりオッサンになってしまったけれど,こうして年に1回は昔に還る日があるのも悪くないのかもしれません.

演奏終了後少しだけ拍手を待ってください

クラシック音楽のコンサートを聴きに行くのはもちろん愉しいことで,演奏に多少の瑕疵があろうがなかろうが私にはそんなに気になることは多くないし,たいていは大いに満足して帰ってくるわけです.しかし,その中でただ一つ,いつも何とかならないかと思うことがあります.演奏後の拍手のことです.

演奏後に拍手が延々と続いて指揮者やソリストを讃えるのも,ちょっとしつこいなとは思いますがこれは伝統ある文化なのでとくに気にはなりません.嫌だなと思うのは,演奏が終わるやいなや拍手をする聴衆が大勢いることなのです.ブラボーがいきなり来ることもあります.

たぶんかなり興奮しているのだろうとは思いますが,私には演奏後すぐに拍手なんてできません.良い演奏ならなおさらです.音楽を聴くというのは深い内省と一体化した行為であって,今聴いているものが自分の内なる音楽的文脈と呼応することで初めて感動がもたらされるのだと思っています.演奏が終わった後,私には今起こったことを確認する時間が必要です.数秒の短い時間でいいのですが,その間に拍手が起こってしまっていつもディスターブされた気分になります.

私にその時間をください.すぐに拍手をしたい気持ちもわからないではないですが,あなた自身と対話して,良い音楽が聴けたことの幸せをかみしめてから意思表示をしても,決して演奏者に対する非礼には当たらないと思いますよ.

モルゴーア・クァルテットが演奏したプログレ曲

しつこいですが再びこの話題です.先日,録画したこのカルテットのビデオを見ました.メンバーのインタビューもあって裏話がいろいろ聞けました.一番可笑しかったのは,そもそもプログレ好きなのは第1ヴァイオリンの荒井だけで,他の3人は荒井とレコード会社スタッフにまあいわば引きずられるような形でプログレに付き合わされているようだということです.

荒井が編曲を終えると,その曲が入っているCDが他の3人に配布され,強制的に聴かされるのだそうです.楽譜だけでは伝わらないことはもちろんあるので,オリジナルを聴いてくれと.ずっとまじめにクラシック音楽をやってきて,音楽家として充分以上の社会的地位を得た人たちなのに,こんな羽目になってほんとお気の毒です.

その原盤ですが,私先日ライブで聴いた曲の入ったアルバムは,すべて昔LPで買いました.懐かしいですね.該当するのは以下の3枚です.


原子心母/ピンク・フロイド
1. Atom Heart Mother
2. If
3. Summer '68
4. Fat Old Sun
5. Alan’s Psychedelic Breakfast



Red

1. Red/キング・クリムゾン
2. Fallen Angel
3. One More Red Nightmare
4. Providence
5. Starless



危機/イエス
1. Close To The Edge
2. And You And I
3. Siberian Khatru


これらのうち,「Red」と「危機」は今でも手元にありますが,「原子心母」は20歳になったころ中古レコード屋に売り払ってしまいました.私がロックを熱心に聴いたのは十代後半の3年間程で,当時誰もが聴いたディープ・パープルやレッド・ツェッペリンをはじめ,くだんのプログレ,あるいは少しさかのぼったところでブルースロック系のいくつかのバンドが中心でした.

高校から大学に入るころで当然レコードをたくさん買う金はありません.当時聴いていたロックよりもずっと古いジャズやもっと古いクラシック音楽が新鮮に感じ始めた頃,ほとんどのロックLPを売ってしまい,ジャズやクラシックのLPを買う資金の足しにしました.「原子心母」もそのように売ってしまった1枚です.

今考えれば,売ったところで大した額にはならなかったのだからあのまま持っていれば良かったのにと言いたいところですが,まあ当時はそれほど窮していたということではあります.下宿に閉じこもってレコードばかり聴いているわけにはいきません.ライブも聴きに行きたいし,持っていたバイクの維持費だってあるし,人並みに合コンだって行かなければ.

というわけで,イエスのLPも何枚か持っていたのですが,結局手元に残したのは上の「危機」だけでした.ただクリムゾンだけは売る気になれず,当時リリースされていた作品のほとんどはいまだにそのまま手元に残っています.今聴くとさすがに初期のものはちょっと苦しい面もありますが,後になるほどタイトで,特に海賊版で聴けるライブがすごいことは以前も書いたとおりです.
キング・クリムゾンの海賊版LP
キング・クリムゾンの海賊版LP (続き)

モルゴーア・クァルテット TV放映

明日6月30日(月)6:00~6:55AMのNHK BSプレミアム「クラシック俱楽部」で,モルゴーア・クァルテットの演奏会の模様が放映されます.タイトルは『モルゴーア・クァルテット~プログレッシブ・ロックに挑む~』.ただし収録されたのは2013年の7月で,内容は『21世紀の精神正常者』のCDに収められた曲の中から何曲かが演奏されるようです.これは録画しとかないと.

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Author:choby
最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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