『かくれ里』の桜を巡るドライブ(前半) -京都・常照皇寺

白洲正子の随筆集『かくれ里』には,印象的な桜の風景がいくつか出てきます.天候不順でちゃんと桜を見ることができなかった今年の春.日曜はまずまずの陽射しがありそうだったので,この作家が見たはずの桜の風景を追うドライブに出かけました.

できるだけ早く着きたかったので名神を使って京都南まで行き,周山街道(国道162)を北上します.以前ここで,京都市内にマイカーを入れるなと発言した舌の根も乾かぬうちに,自分が京都市内をクルマで走っているという自己撞着ぶり.だって白洲正子と同じ道を辿りたかったんです.許して下さい.

途中,興味を惹かれる風景に何度も出会いつつも,今日は初志貫徹のためにいつもの寄り道グセを封印.9時ちょっと過ぎに参道の取り付きに到着.これをさらに進んでいくと駐車スペースがあります.


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常照皇寺は南北朝時代の光厳天皇によって開かれた禅宗寺です.北朝の初代天皇であった光厳天皇は,騒乱のうちに廃位・上皇となり,その後数年間にわたる過酷な幽閉生活や,諸国漂泊の旅をすることになります.最後は自分が開いたこの常照皇寺に蟄居して静かな晩年を送り,ここで亡くなりました.境内はそうした隠遁の場にふさわしい野趣に溢れています.

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山門をくぐって石段を登り,勅額門へ達します.光厳院筆の額が掛けられていました.門をくぐって中へ.上方に勅使門が見え,その向こうに桜の枝がのそいています.それにしても苔むした石段,苔むした古木.受付で手続きをし,いよいよ桜の庭へ.


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白洲はこの寺の桜のことを『かくれ里』の中の「桜の寺」に書いています.それによれば,この寺の庭は三本の桜で成り立っているとのこと.最初は「車返し」の桜.下から見たときに勅使門越しに見えていたのがこの桜です.まだつぼみが多く,来週以降が見頃でしょう.奥には先代の株が残されていました.こうして継承のありようを明らかにするのがこの寺の様式なのでしょうね.

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そして奥にあるのが「九重」.名木ぞろいの京都の桜の中でも,国の天然記念物に指定された桜はこのしだれ桜だけだそうです.ソメイヨシノと違ってしだれ桜は長命ですが,白洲がこの桜に出会ったとき先代の桜はすでに老い,瀕死の状態でした.白洲はちょうど集まっていた村人から,昔この桜がどれほど立派で美しかったかを聞かされます.そして,教えられて見た根元にかぼそい苗木が生えていて,添え木をしてあることに気付きます.実生であり,正真正銘の子孫.村人は,こう言ったそうです.「子供を残したからには,もう寿命も長くないでしょう.桜は,そういうものなのです」.

それから数十年を経た現在.私が見ているこの桜がその時の苗から育った木かどうかは定かではありません.しかし,そうした物語を背景にこの桜を目にすると,光厳上皇が手ずから植えた桜をはるばると生かし続けてきた人々の営みが実感されて感動的でした.


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なお,その時もう先は長くないと言われた親木は,なんとまだ生きています.左下のうろをもった古木がそれです.今年も立派に花を付けていました.そして三本目は,右下に示した根元を竹矢来で囲われた「左近」の桜.京都御所から移されたとされています.


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苔むした庭をぶらぶらしながら何枚が写真を撮り,方丈に上がりました.北側の庭にある(おそらく)カエデの新芽が赤くなって,これからいよいよ新緑の季節であることを実感します.ふと上をみるとこの敷地からはだいぶ離れて建屋があります.もらった地図で見てみると,光厳院の墓所であることがわかりました.

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いったん勅使門の前まで下り,池の端を歩いていくとこれもまたずいぶんと苔むした石段が上へ続いています.登っていくと墓所入り口に出ました.

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上にある上皇の陵墓は現在宮内庁が管理し,写真の場所までしか行けません.自身の墓について光厳上皇は,「松柏塚上に生じ,風雲時に往来するもの是れ予の好賓にして甚だ愛する所なり.如し其れ山民村童等,聚沙の戯縁を結ばんと欲して小塔を構ふること尺寸に過ぎざるは亦之を禁ずるに及ばず」との言葉を遺されたとされます.この一言のみでも,単に苦難と呼ぶにはあまりに過酷な人生の末に,とらわれのない精神を獲得されていたことが伺われます.果たして墓所にこうした処遇を望まれたものだろうかと考えながら,木々の若葉が目立ち始めた参道を下りました.


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はつよろです♪

なんだかファンになっちゃいましたo(^-^)o

わたしですね…このところついてなくて(汗)
すべり台を滑っても滑ってもゴールが無い感じなんて言えば少しは伝わりますか?
ものすごい急降下中なんです。。

そんなこんなで色んなブログ読み漁ってたらここで足が止まりました( ´∀`)不思議と心惹かれたんです。
chobyさんも色んな時間を過ごされてるんですよね。きっと。。

急なお願いで戸惑わせてしまうかもしれませんが
話し込んでみたいというか話しを聞いてもらえたらって気持ちを持たずにはいられなかったんです(*´∀`)b

連絡してくれたら有難いです。
もしも迷惑であればコメントごと私のこと消してください。

かくれ里

はじめまして。
私も白洲正子の「かくれ里」に出て来る常照皇寺を、10年ほど前に妻とドライブがてら訪問した事があります。
このブログを拝読していて、当時の記憶が甦りました。
ありがとうございました。
敬具
安井 博幸

Re: かくれ里

安井 博幸さん,コメントありがとうございます.
年齢を重ねるにつれ,その向こうに物語が見えるような風景に接したくなりました.
白洲正子の本は常に良いガイドブックになってくれます.
この日は常照皇寺の後に福井の神子まで足を延ばしましたし,
著書『明恵上人』に導かれて和歌山の史跡にも行ってみました.
いずれも本ブログにメモを残しております.

http://optipessimist.blog108.fc2.com/blog-entry-519.html
http://optipessimist.blog108.fc2.com/blog-entry-634.html
http://optipessimist.blog108.fc2.com/blog-entry-639.html
http://optipessimist.blog108.fc2.com/blog-entry-603.html
http://optipessimist.blog108.fc2.com/blog-entry-607.html

ご笑覧下されば幸いです.

> はじめまして。
> 私も白洲正子の「かくれ里」に出て来る常照皇寺を、10年ほど前に妻とドライブがてら訪問した事があります。
> このブログを拝読していて、当時の記憶が甦りました。
> ありがとうございました。
> 敬具
> 安井 博幸
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最悪想定する傾向はあるでしょうね.でも石橋叩いているだけの人生はつまらない.

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